野球善哉BACK NUMBER
横浜・筒香はニュータイプ?
理論を超えた本塁打王を目指す!
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/01/19 10:30
「右投げ・左打ちは体の自然な動きに逆らっている」
数人の指導者から、伝え聞いたのは以下のような声である。
「右投げ・左打ちは体の自然な動きに逆らっている」
「右投げ・左打ちは利き腕が右になるわけですけど、バットを振る時に使う筋肉とボールを投げる時に使う筋肉は使うところが違う。ここに無理が生まれる」
前者はごく一般的に言われている理論である。
たとえばキャッチボールは野球の基本だが、右投げの場合、右足に体重を乗せて力を貯え、体重移動をし、左足で受け止め指先に伝える。この動作はバッティングでも同じで、指先がバットに変わっただけである。さらに言うならば、利き腕が右であれば、打球のひと伸びには後ろ手の押しが一役買う。左利きの左打者でも同じだ。これはごく自然なことである。これが右投左打なら、利き手が右手だから、後ろ手は押しになってはくれない。金本のように左手の筋力を意識的に鍛えるという選手もいるが、野球の基本となる動きとは逆のことをしている、という疑問は的を射ている。
バットを振る筋肉と投げる筋肉が違うことが右投左打の問題。
ともあれ後者は無視できない理論に思われる。
バットを振り抜く筋力とボールを投げるときに使う筋力では違う筋肉を使っているのは確かなようだ。だから、振り抜く力をつけていくと打球は飛ぶが、ボールを投げる分にはプラスにならない。逆に、投げる方を特に強化していけば、振り抜く力はその分おろそかになる、と。
「使う筋肉はそう違わない。要するに偏り」だと指摘する専門家もいる。大事なのは筋肉ではなく「体のバランスが保たれているかどうか」だということだ。
右投左打に好打者タイプが多いのは体をバランスよく使えているからで、彼らはおしなべてシャープなバッティングを持っており、スローイングもいいという。
一方、右投左打のホームランバッターはボールを運ぶ力がある分、筋力のバランスを上手く保てずスローイングに欠点がある選手が多いようだ。
松井秀喜に続く、右投左打のホームランバッター誕生なるか?
そうした意味で、右投左打のホームランバッターが少ない理由が透けて見えてくる。人間の身体の構造上、右投左打ではホームランバッターを育てにくいのだ。
とはいえ、ここでこのコラムを終わりにしたくない。それでも右投左打のホームランバッターは生まれるのだと、ある男にひとつの夢を託したい。
それは、横浜ベイスターズに1位入団した背番号55番・筒香嘉智、である。