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<現地潜入取材> 北朝鮮 44年前の奇跡をもう一度。/特集:W杯出場32カ国決定
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byPark Jong Tae
posted2009/12/03 10:30
マスゲーム“アリラン”。民謡“アリラン”をモチーフにしており、出演者は10万人といわれる。貴重な観光資源でもあり、会場には平壌市民の他、中国やヨーロッパ、アフリカからの観客も多く訪れていた
誰もこの快挙を予想できなかっただろう。W杯に出場する32カ国の中で、最も強烈な異彩を放つ国。しかし、日本にはなぜ彼らがサプライズを起こせたのかは伝わってこない。
その真実を知るべく、“近くて遠い国”、朝鮮民主主義人民共和国の首都・平壌を訪れた。
その真実を知るべく、“近くて遠い国”、朝鮮民主主義人民共和国の首都・平壌を訪れた。
マスゲーム“アリラン”を見終えて、15万人収容を誇る北朝鮮最大のスタジアム、“メーデースタジアム”を後にした。バスの中で、リ・ガンホンが言う。
「ホテルに着いたら30分後に」
リ・ガンホンは神戸生まれの在日朝鮮人2世で、在日本朝鮮人蹴球協会理事長と北朝鮮サッカー協会の副書記長を兼務する。今回の取材に際して、訪朝前から様々なアドバイスをくれていた。
待ち合わせ場所は、投宿している高麗ホテルの最上45階。そこには、北朝鮮の首都・平壌(ピョンヤン)を一望できる回転展望レストランがある。
注文したビールが来るまでの間、窓の外を眺めた。夜空には無数の星が輝いている。その中で異様に浮かび上がる赤い炎。“主体思想塔”の最上部にある烽火のオブジェだけが、燃えたぎるように光りを放っていた。
ウェイトレスが薄暗いフロアのテーブルにハイネケンを置いた。リ・ガンホンがウェイトレスを呼び止める。
「ピョンヤン産のビールはある?」
再び運ばれたのは、北朝鮮で人気の“大同江ビール”。それを2つのグラスに注いだリ・ガンホンは、ゆっくりとビールを喉に流し込んだ。こちらも口元にグラスを運ぼうとしたときだった。