コース前方で、大きな銃声が聞こえた!!

　そんな時、コースの前方で銃声のような大きい破裂音が聞こえた！

　発煙筒だった。

　誰かリタイヤしたのだろう。この先にはさらに困難な道が待ち受けているのだろうか？　怯えながらもひたすら登る。

リタイヤを知らせる発煙筒。使わずにすみました

　崖を2～3個越えると割合平坦なコースが現れた。助かったと思い、進んでいると激しい腹痛に見舞われる。ペインキラーの副作用だろうか？　気を緩めたのがいけなかったのかもしれない。仕方ないので自らコースをそれて砂漠に入っていき、誰にも見えないところで用を足す。

　羞恥心どころか、爽快感すら感じる。

　暑さもきついので日陰を見つけ休憩する。

　休憩していると、イギリス人選手もその日陰にやってきて休憩し始めた。話しかけると「今50度を超えてる。この中を走ると死んでしまうよ」と言っていた。また嫌な事を聞いてしまった。どうりでグミが溶けて液体状になっているわけだ。色々話し、何度この大会に出ているのか聞いてみると「今回が初めてだが、今回が最後だ」と格好よく言っていた。このサハラマラソンはリピーターが約30％を占める大会なので、どうせこの人もまた出るんだろうな、と思いながらもネガティブな話は聞きたくないので早々に出発する。

　50度という悪魔のようなフレーズを聞くとやはり辛い。そして膝も痛い。お腹もすいた。一体何のために走っているのだろう。痛み止めを飲みながら50度の砂漠の中をひたすらに歩く。ただの変態じゃないか。

　こういった自問自答を繰り返していると、伴走者付きのランナーが横を通り過ぎる。盲目のランナーらしい。詳しくは聞いていないので間違っているかもしれないが、チャリティーか何かで走っているようだ。

　やはり自分は甘かった。膝が痛いくらいでピーピー言っている自分が情けなくなった。

　勇気をもらったというと少しニュアンスがズレるが、何かズシっとくるものを感じた。対抗するつもりはないが、負けていられない。自らを奮い立たせて先へと進む。

「いま気温54度だ！　気をつけろ！」

　PM1時、CP2に到着。スタッフが水をかけてくれた。こんなサービスあったっけな？　と思っていると、「いま気温54度だ！　気をつけろ！」と言われる。

　CPの簡易メディカルは人で溢れていた。おそらく熱中症だろう。

　砂漠新年会のアドバイスをもとに、普段の練習から意識的に水分補給をし、小まめな水分補給が癖になっていたので、私は熱中症になりにくくなっていたのかもしれない。もしくは空腹故、ずっと塩熱飴を舐めていたのが良かったのかもしれない。「日サロで暑さ対策！」と言っていた頃が懐かしい。この『サハラマラソン挑戦記』最大の恥部かもしれないが。

　音楽を聴きながら歩けば気も紛れるのではと考え、持っていたiPodを聴きながら再び出発。しかし残念ながら砂漠用に曲を入れるのを忘れていたので、オバマ大統領の代表演説、NHKのドイツ語会話、そして少々の邦楽しか入っていない。こんなところで東京外語大生クオリティーを発揮しなくてもいいのにと思いつつ、オバマ大統領のスピーチをBGMに砂漠を歩く。なんてミスマッチなんだ！　しかし、初の黒人大統領はポジティブなことしか言わない上にリズムもいいので自然とテンションはあがっていった。

　3回目のリピートが終わり、飽きてミスチルを聴きながら進んでいると、日本人選手の藤岡徹さんと遭遇したので一緒に歩いてもらう。藤岡さんの職業はジャーナリストらしく、やはり凄く聞き上手だ。今回関わった日本人選手の方は、日常生活では知り合えないような方々ばかりだったので、話が凄く面白い。気付けばCP3に到着し、もう少しでゴールというところまで来ていた。

（上）砂漠の空に緑色のレーザーを発するビバーク
（下）帰りの飛行機で笑顔を見せる飯田さん

　時刻はPM7時を過ぎ辺りは暗くなり始めていた。ビバークからは目印のレーザー光線が出ている。いよいよゴールか、と安堵していると、後ろから日本人選手に抜かされる。何と飯田徳子さんだった。

　飯田さんは74歳で今回の大会の女性最高齢参加者だ。

　過去にも二度完走を果たしており、いわばサハラマラソン界のマドンナ的存在である。もともと100kmマラソンやアイアンマンレースなど国内外問わず100以上のレースに参加されていた方で、恐らく世界一アグレッシブな70代だと思う。足音を立てずにゴール間際に抜いていく様は、まるで息を殺し獲物を狙う狼のようであった。初日に眞守君が同様の体験をし、大変ショックを受けていたが何となく分かる気がした。あと二年若ければ走って行って追い抜いたかもしれないが、もう自分も大人である。というか膝が痛い。飯田さんを見送り、藤岡さんとゴール。タイムは10:21:38、時速は4.05km。お腹がすいた。

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