サハラマラソン挑戦記BACK NUMBER
星のサハラ砂漠を遥々と歩く……。
サソリも怪我も遭難も慣れてきました。
text by
松山貴史Takashi Matsuyama
photograph byTakashi Matsuyama
posted2011/05/06 06:00
オーバーナイト・ステージ、レースの合間に「サッポロ一番」を食す
●4月6日(水)レース4日目……4th stage Total 82km、CP1:12.2km、CP2:25km、CP3:38km、CP4:49km、CP5:61km、CP6:72km
AM6時、いつもの如くベルベル人が来襲。日に日に横柄さが増しているのは気のせいだろうか? ブラックサンダー(チョコレート)をこっそり持って行ったのを私は見逃さなかった。貴重な食料なので、「今盗っただろ!」と英語で問い詰めたのだが、言葉が分からないフリをして逃げて行った。やれやれ。
朝の準備をしていると、サソリが現れた。
「あ、サソリだー」周囲の方々のテンションはとても低い。疲れているからだろうか。当初、自分も砂漠で一番怖いものはサソリだったが、このような過酷な環境に身を置くと、サソリなんて大した問題ではなくなる。逃げる、ではなく撮影のためにカメラを探すくらい冷静で、逆にサソリの方が逃げてしまう程であった。たった4日間でタフになったものだ。
今日はいよいよオーバーナイト・ステージ。この大会のヤマ場だ。
制限時間16時間以内で49km、そして32時間以内に82kmを走り切らないといけない。大会が始まる前は「時速7kmぐらいで走って、日が変わる前にゴールしたいな」などと考えていたが、膝の具合からして100%無理だろう。さて、どうしたものか。
いつもの如くスタート地点に集まり、パトリック氏の説明を聞く……なんだか異臭が漂ってくる。チーズのような匂いだ。なんの匂いか考えていると、自分とそして周りのランナーの体臭であることが分かった。
毎日大量の汗をかいているのにもかかわらず、シャツもロクに変えず、シャワーすら浴びない生活をサハラ入りしてから6日も続けているのだ。特に、外国人選手のそれは凄まじいものであった。そういえば2~3日前から外国人選手がそばを通る度に妙な刺激臭が鼻をついていた。砂漠特有の匂いなのかと思いこんでいたが、ようやく謎が解けた。
この日はスタートが時間差になった。上位50人はPM12時からスタート、その他の選手はAM9時スタートらしい。ドイツから参加のワタルさんが50人ゾーンにいるのを目撃する。あの人そんなに凄い人だったんだ。そんなことを考えながらトップ50人の応援を受けレースはスタート。
いきなりゴツゴツとした地形が現れる。自分にとっては一番キツイ道だ。今日はメディカルに貰ったペインキラー(痛み止め)のお陰で、あまり膝の痛みは感じなかった。「くれぐれも一日3錠以上飲んではいけないわよ。そして飲むときは4時間以上間隔をあけて飲まないといけない。いい、これは私との約束よ。これを破ると、とんでもないことが起こるわ」とメディカルの美人の医者に言われた。きっと強力な薬なのだろう。副作用などが心配だが仕方ない。
人と話しながら歩く方が楽なので、同じ速度で走る外国人選手と適当に話していたが、ネガティブな会話ばかりで参った。「俺は3回目の参加だが、こんな厳しいのは初めてだ。これまでの3日間を考えると先が思いやられるぜ……ハァ」のような話をされ、こちらまで憂鬱になる。そしてなにより体格が違いすぎる。外国人選手が3歩進む間に、こちらは5歩進まないといけない。やはりスポーツ分野では我々は圧倒的に不利なのだと悟る。
そんな中、同じテントの小林正尚さんと、山田健太君に遭遇。2人ともこの1週間で風貌が劇的に変わっている。小林さんは疲れ果てているためか、ジャングルで発見された旧日本兵のような風貌になっており、山田君は髭が伸び過ぎているためかイタリア人のようだ。鏡がないので自分の変化は分からないが、恐らく彼ら同様ひどい姿なのだろう。
小林さんも前日に自分と同じように膝を痛め、走れなくなっているらしい。折角なので、一緒に歩くことに。3人寄れば文殊の知恵とはよくいったもので、年齢も近いためか会話もはずみ、時間もすぐに経つ気がする。3時間ほど歩いてCP1に到着。いい感じで距離を稼げている。
PM12時15分、勢いがあるうちにCP1を出発。ところが、1時間半ほど歩いたところで恐ろしい光景を目にする。