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福岡ソフトバンクホークス 王国の野望 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2005/07/21 00:00

 「大金をかけて、選手を補強するのは決して悪いことではない。ただし、チームの核には生え抜きで地元出身、さらにいえば同世代がいるほうがいい」

 これは強いチームを作る際の王貞治監督の考えである。V9時代の巨人がまさにこの形だった。OとN(長嶋茂雄)が切磋琢磨しながら、チームを支えていたのだ。

 そして王監督が就任11年目を迎えたホークスには、城島健司と松中信彦がいる。入団は城島が2年先ながら、年齢は松中が3歳上とまさに同世代。城島は長崎、松中は熊本と2人とも地元九州の出身でもある。

 王監督も、2人には全幅の信頼を置く。

 「2人は立派にチームを支えてくれている。時代が違うから単純に比較はできないが、ON以上の頼もしさを感じる」

 V9時代、ONのアベック本塁打は106回を数え、87勝16敗3分と勝率は8割を超えていた。ホークスも松中・城島のアベック弾が出た試合では23連勝中。MJの打棒がチームに勢いを与えている。

 両者の微妙な関係もONに近いものがある。最近は現役時代の話はしない王監督だが、ONについてこう言っていた。

 「試合後、2人で飲みに行ったりすることはほとんどなかった。もちろん仲が悪い訳ではないけど、一緒に行動しないことが、グラウンド上では妙な緊張感になっていた」

 ソフトバンクの松中・城島にも通じるものはある。地元の記者は言う。

 「松中と城島はプライベートで一緒に出かけることはまずない。昨年から酒断ちをしている松中は若手を連れて飲み歩く方ではない。一方、城島は麻雀でコミュニケーションを取ると言っている。この微妙な距離感が、チームの緊張を作っている。王監督は経験でそれを知っていて、いつも等距離から見ている」

 この緊張感が、ソフトバンクを支えている。松中、城島は、チームの主力となったいまも早い時間に球場に来て、体を動かしている。ダイエー時代、経費削減でトレーナーなどの裏方にしわ寄せがきた。それで個人契約のトレーナーなどが球場に立ち入りを許され、主力組も全体練習の前に体作りに励むようになったのだが、そんな姿を見てきた若手の球場入りも自然と早くなった。

 「秋山(幸二)が強い西武からやってきた。その姿を見て小久保(裕紀)がもっと強烈に練習した。それを見ながら育った松中や城島が、やるのも当然だった。強いチームの伝統はそうやって出来上がってきた」

 福岡に移転してきた頃からチームを見てきた若菜嘉晴の言葉だ。

 V9巨人は、ONが先頭に立って練習に励むことで、チームの基盤ができていった。西武の黄金期は秋山、石毛(宏典)が猛練習して、同じことをした。ソフトバンクでは、松中、城島の姿勢が現在のチームの基盤を固めているのである。

 さらに、ONなき後の巨人の低迷を見てきた王監督は、松中、城島に続く次世代への布石も打ち始めた。

(以下、Number632号へ)

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