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キケ・フローレス 「戦術を語るには2日かかる」 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

posted2007/05/17 23:35

 バレンシアの地元紙、スーペル・デポルテのホルヘ・バレーロ記者は、キケ監督のモチベーションアップ術を高く評価している。

 「4月15日のセビージャ戦のことです。試合前、キケはMFのダビド・シルバに『昨年のセビージャとの試合で、退場になったのを覚えているか?― 今日こそ、その仕返しをするときだ』と煽ったんですよ。そうしたら見事シルバは活躍した。試合後キケは『私は選手の気持ちを高める術を知っている』なんて豪語してましたが(笑)」

 そういう管理術に長けているのは、おそらくキケがつい最近まで選手だったことが大きいだろう。現在42歳のキケは10年前までプレーしており、選手の立場になって物事を考えることができるのだ。

 今季リバプールからバレンシアに加入したスペイン代表のフェルナンド・モリエンテスは、監督をこう称える。

 「キケはこないだまで選手だったから、ロッカールームの雰囲気をよくわかっている。だから、まとめるのがうまいんだ」

 このベテランFWは、昨季まで所属したリバプールを率いるスペインきっての名将を引き合いに出した。

 「ラファエル・ベニテスとキケはとてもよく似たタイプだと思う。戦術的で組織的なチームを作るのがうまい。ただ、大きく異なるのは、ベニテスが選手として成功していないのに対して、キケはスペイン代表でもプレーしたDFだったということ。ベニテスは自分の戦術を徹底するためにトレーニングがあると考えていて、しばしば練習が退屈になってしまう。それに対してキケは練習を工夫して、選手が飽きないようにしているんだ」

 キケの練習メニューは多彩なことで有名だ。たとえばGK練習ではラグビーボールを使ったり、3人1組が次々にピッチに走り込んでシュートする変則的なカウンターの練習をやる。また紅白戦でキケは、実況解説をするかのように、名指しでプレーの感想を言い続ける。何が良くて、何が悪いのか監督の考えを伝えるためだ。

 ただ、こういう管理術や練習法はキケの最大の長所からすればあくまで枝葉にすぎない。

 キケがヘタフェを率いているときに見出され、レンタル先のヘタフェからバレンシアに引き戻されたDFアルビオルは、監督のすごさを身近で見てきたひとりである。

 「もともと自分はMFだったんだけど、キケに足の速さを見込まれてDFにコンバートされた。それが見事に当たって、自分はCLでプレーできるまでの選手になった。バレンシアはバルセロナやレアル・マドリーに個の力では劣るかもしれないが、組織力ではうちが勝っている。キケはトップレベルの戦術眼を持つ監督だ」

 キケの最大の長所。それは戦術である。

【次ページ】 組織的な攻撃のためには机の上での勉強も大切だ。

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