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田中将大 したたかな19歳。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2008/04/17 17:10
プロになる前からプロだった──。
田中将大と話をしていると、度々そんなフレーズが頭を過ぎる。
報道に携わる人間に対して、やんわりとではあるものの、田中がこんな苦言を呈していたことがある。
「自分のことをたいして知りもしないで、よく質問できるなって思うことがある。そのへん、聞く人には、ちゃんと考えて欲しいなって思いますよね。マスコミの方は、それが仕事なんですから」
この発言は、プロになってからというよりは、野球を始めてからこれまで、いかに自分が野球と真摯に向き合ってきたかということの裏返しでもある。
自分と同じものを他人に対しても求めるところに若干の若さを感じないわけでもないが、少なくとも、高校を卒業したばかりのプロ野球選手がおいそれと吐けるセリフではない。いや、もっと言えば、高校時代から、そう言葉にしないまでも、沈黙の奥にそんなメッセージを隠し持っている雰囲気はあった。
よく耳にする話だが、通常、選手同士で食事に行くと、ほとんど野球の話にならないものだという。その感覚はなんとなくわかる。だが、バッテリーを組む嶋基宏いわく、田中はその正反対だそうだ。
「一緒に飯食ってるときも、一緒にゴルフ回ってるときも、あいつは野球の話ばっか。寮の部屋でも、よく試合のVTRを観返してますからね」
登板前、田中は、対戦チームとの直近の試合を必ず観るようにしている。そこでいかに抑えるかのイメージをつくってから試合に臨むのだ。もちろん、これは田中の野球に対する姿勢を示す、ほんの一端だ。
こうした姿勢の何層もの積み重なり。田中という投手の断面図が見られるとしたら、きっとそんな状態に違いない。
田中が何気なく発した言葉にハッとさせられるときがある。スライダー談義をしていたときのことだ。
「ダルビッシュさん(日本ハム)の縦に落ちるスライダーは、小林宏之さん(ロッテ)と同じ握り方だと思いますよ」
そう看破した田中の思考の背後に、スライダーに関する文献が何冊も収まっているのを見たかのような思いがしたものだ。
高校時代の逸話も、田中の観察眼の鋭さを裏付ける。