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田中将大 したたかな19歳。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2008/04/17 17:10
3月14日、田中にとって最終調整となった西武とのオープン戦でのことだ。先発した田中は、7回を3失点とその役割を十分に果たした。だが、監督の野村克也は例のごとくぼやいていた。
「ちょっと不満だな。紅白戦のときからそうなんだけど、真っ直ぐがことごとく芯でとらえられる。今日も、6本のヒット中5本がストレートだから。ストレートを磨かないと大投手にはなれない。過去、新人王っていうとだいたい真っ直ぐがよかったんだけどな。マー君は変化球がよくて新人王を獲った。珍しいタイプだよ」
言うまでもなく田中はそのことも自覚している。インタビュー中、何度となく質問を先回りし、こちらの問いを遮った。
「そら、真っ直ぐをよくしないといけないのはわかってますよ。それは、わかってます、はい」
でも、実戦になったら、抑えることを第一に考える。その中で、成長もしていく──。ここでも考えに無駄がない。ある意味、味気ないほどに合理的なのだ。
昨シーズン、田中は、普通の高卒ルーキーなら4年も5年もかかりそうなプロの階段をわずか1年で駆け上がった。だから観る方は今年もつい同じ歩幅を期待してしまう。だが、田中はそんな周囲のかかり気味な希望的観測をけん制する。
「まだ2年目ですよ! そんなに早く完成してもおもしろくないじゃないですか」
忘れがちだが、確かにそうなのだ。今季の数字的目標を投げかけたとき、「簡単に言いますけどねえ」と、細い目で二度もたしなめられた。
それでも田中が福岡ドームで見せた今シーズン初戦のボールは、早くも昨季と同じような「数段飛ばし」を予感させた。3月22日、ソフトバンクとの開幕3連戦の2戦目に登板した田中の真っ直ぐは、ほとんどが140km台後半。150km超えのボールは12球を数え、自己最速まであと1kmと迫る152km もマークした。
リリーフ陣が打ち込まれ、勝ち星こそ逃したものの、試合後、本人も「カキーンって当たりはなかったですよね」と、直球に手応えを感じている様子だった。
ところが3月29日、今季2戦目となった日本ハム戦は一転して真っ直ぐが走っていなかった。150kmに到達したのは、9回表、最後の打者への2球のみ。にもかかわらず終わってみれば、111球で完投勝利。完投ゲームとしては、球数も三振の数(6奪三振)も自己最少。およそ田中らしからぬ投球内容といえた。
「初回、ぜんぜんよくなかったので、いつもなら三振をねらいにいくところも途中から打たせて取ることを心がけました」
内容に納得していないと思いきや、田中はいつになく上機嫌だった。そして去り際、報道陣にこう言い残し、口の端で笑った。
「こういうピッチングも、おもしろいかな、って」
したたかな19歳である。だから、こんな言葉にもうなずかざるをえないのだ。田中が敬愛する中学時代の恩師で、冬の自主トレパートナーでもある奥村幸治は言っていた。
「今シーズン、15勝ぐらいするわ。あいつが勝てない姿ってのが、想像でけへん」
少なくとも、2年目のジンクスという言葉とは無縁な気がする。「プロ」というのが野球に対する意識の深度だと定義するならば──。そう、彼は、プロになる前からプロだったのだから。