フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
大人になった“ジャンプの美姫”。
安藤とヨナの勝負を分けたもの。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2011/05/02 11:45
安定した美しい演技と技術で再び世界の頂点に立った安藤美姫。キム・ヨナは表彰台で涙を流したが、その理由を「なぜだかは自分でも分からない」と説明。結局「この先のことは考えていない」という言葉を残して、五輪の女王はモスクワを去った
もしヨナがバンクーバー五輪の時の体調だったら……。
SPが「ジゼル」、フリーでは「アリラン」を滑ると聞いたとき、あのバンクーバー五輪の体調で彼女がこの二つを滑ったなら、どれほど素晴らしい作品になることだろうと見るのを楽しみにしていた。
だが正直に言うならば、どちらも期待したほどの内容ではなかった。
ところどころではっとさせる美しい動きを見せたものの、プログラムとして全体がまだこなれておらず、滑り込みが足りない印象だった。ジャンプにも昨年のような圧倒的な自信が感じられず、特にフリーではジャッジの採点もそれほど伸びなかった。
「五輪の後はしばらく休みたかったので、GPシリーズや四大陸選手権には準備が間に合わなかった。でもミスをした原因は、ブランクのためだとは思いません。ちょっと緊張してしまったためのミスでした」
会見でキムはこう語ったけれど、実はこの緊張こそが、1年間のブランクがもたらしたものだったのではないかと思う。
2回の五輪を経てきた安藤ならではの「大人の勝ち方」。
一方優勝した安藤は、このシーズンを通して安定した演技を見せてきていた。
「プレッシャーのあった五輪の年を終えて、今シーズンは本当にスケートを楽しむことができるようになった。この大会も、重く感じずにリラックスしてできた。ベストな滑りではなかったけれど、達成感があります」
今回は3+3のコンビネーションにも挑むことなく、完成度の高さにこだわったという。SPの「ミッション」は情感たっぷりに余裕をもって演じたが、フリーは「とにかくミスをしないこと」という意志を感じさせる演技で、ひとつひとつのジャンプを着実に降りていった。その分、ややスピードには欠けた。
「今の採点方式だと、難しいジャンプをやっても完成度が低いとマイナスのGOE(技や演技の出来ばえ)がついて高い評価はもらえない。失敗するとわかっているジャンプに挑戦するよりも、得意なジャンプの完成度を高くして全体をまとめる演技を目指しました」
そう冷静に見極めた安藤。2回の五輪を経てきた彼女ならではの、大人の勝ち方だったと言える。
かつてひたすら4回転サルコウにこだわっていた「ジャンプの美姫」は、勝ち方を知っているベテラン選手に成長し、みごとに二度目のタイトルを射止めた。