フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
大人になった“ジャンプの美姫”。
安藤とヨナの勝負を分けたもの。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2011/05/02 11:45
安定した美しい演技と技術で再び世界の頂点に立った安藤美姫。キム・ヨナは表彰台で涙を流したが、その理由を「なぜだかは自分でも分からない」と説明。結局「この先のことは考えていない」という言葉を残して、五輪の女王はモスクワを去った
「震災が起きたばかりのころは、スケートなんてやっていていいのかという気持ちがあった。でもそのうちに、これが自分にできることなのだからという気持ちに変わっていきました」
試合前の会見でそう語った安藤美姫は、2011年モスクワ世界選手権で4年ぶりに二度目の世界タイトルを手に入れた。彼女が前回、世界チャンピオンになったのは、2007年東京世界選手権でのことである。今年も本来ならば、再び東京で開催されるはずだった。それが3月11日に東日本を襲った震災のため、1カ月ずらしてモスクワで開催されることになったのだ。
ロシアの人々は、被災した日本に優しかった。
開会式では、本来開催されるはずだった日本に敬意を表し、着物を模した装束をつけたロシアのミュージシャンたちが和太鼓のようなドラムを叩き、氷の上には日の丸が映写された。
当初この大会でもっとも注目されていたのは、バンクーバー五輪チャンピオン、キム・ヨナだった。昨年度の世界選手権を最後に競技から休みをとっていた彼女にとって、1年ぶりの大会出場である。
公式練習で絶好調だったヨナを襲った、ブランクによる変調。
小さな大会で足慣らしをすることもなく、いきなり世界選手権に挑戦というのは普通ならば考えられないことだ。どのような状態で出てくるのか興味津々だったプレス関係者の視線を笑顔でかわし、公式練習では絶好調な滑りを見せていたキム。だが、やはり彼女にも1年間のブランクの影響はあった。
SPでは出だしの3ルッツの着氷でステップアウトしたものの、続いたステップからの3フリップに急遽2トウループをつけてコンビネーションにしたのはさすがだった。だがフリーでは2つジャンプミスがあり、安藤に逆転を許して総合2位に終わった。
「五輪も世界選手権も優勝して、今では有名でお金持ちになったあなたが、どうして試合に戻ってきたいと思ったのですか?」
会見でそう聞かれると、キムは苦笑いをしてこう答えた。
「なぜこんなことをしなくてはならないの、と思ったことは何度もある。でもファンに私の新しいプログラムを見てもらいたいと思った。特にいつも応援してくれた韓国のファンに、私のフリーを見てもらいたかったんです」