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情熱の男が牽引したアルゼンチンの快進撃。 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byShinji Akagi

posted2007/11/15 00:00

情熱の男が牽引したアルゼンチンの快進撃。<Number Web> photograph by Shinji Akagi

 独断で選ぶと、大会MVPはアグスティン・ピチョットである。

 南アフリカの優勝で幕を閉じたW杯。残暑厳しい9月上旬に開幕し、決勝では吐く息が白くけむった。季節をまたいで挙行された楕円球の祭典。トライ王に輝いた南アの最速男ハバナ、不振のイングランドを蘇生させたウィルキンソン、長髪髭面と激しいプレーで観客を沸かせたフランスのシャバル……大会の顔はたくさん思い浮かぶ。だが'07年W杯の象徴は、開幕戦で地元フランスを破り、IRB創設8カ国以外から史上初めてW杯4強に進んだアルゼンチンであり、MVPはその進撃を率いた背番号9だ、というのが、現地で大会を見届けた記者の結論である。

 試合中、ピチョットはいつも、大声で周囲に指示を出していた。ウィルキンソンも声は多かったが、ピチョットは全身で自分の意志を伝え、闘志を焚きつけ、チームを動かしていた。試合前の入場ではいつも先発15人とリザーブ7人を繋ぐ真ん中に立った。国歌斉唱のたびに感極まって激しく手を叩き、仲間を熱くさせた。33歳のSHは足首を痛めていながら、要所では誰より早くディフェンスに戻り、プレッシャーに走り、鋭いサイドアタックでトライをアシストした。勝負を分ける場面での仕事量は圧巻だった。

 情熱の男は同時にジェントルマンだった。試合が終わると必ずレフェリー、相手の選手と握手や抱擁を交わし、互いの健闘を称えた。主将の使命感だけではない。それはピチョットが、ラグビーそのものを、心底楽しんでいる証に見えた。

 今回のW杯は、次回大会で出場国を16に減らす案の是非が話題になった。準決勝で敗れた後の会見で、ピチョットは「本気で優勝を狙っていたから本当に悔しい」と涙声で話したあと、自ら口を開いた。

 「W杯は20の素晴らしいチームが、トップ8に勝ち残るために全力を尽くして戦うから素晴らしいんだ。出場国を減らすことはラグビーの死だ」

 ピチョットが初めてW杯を戦った'99年大会開幕の時点で、アルゼンチンはまだ8強を知らず、W杯の勝利も日本と同じ1勝だった。それから8年。アルゼンチンを世界3位まで引き上げた熱きスキッパーは、同時に非伝統国の代表でもあり続けてくれたのだ。この男を見続けることができて、幸せだった。

ラグビーの前後のコラム

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