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堤聖也vs.比嘉大吾「史上最高の3分間」はなぜ生まれたのか?《ボクシング・ノンフィクション》

2025/05/30
比嘉優勢で迎えた第9ラウンド、比嘉が左フックを叩き込みダウンを奪うが、数十秒後に堤の右をカウンターでもらい倒れる
今年2月24日に行われたベルトをかけた同学年対決は、まさに死闘だった。世界戦では珍しい同ラウンド内のダウンの奪い合い。180秒に詰め込まれた極上のドラマを両陣営への取材を通してドキュメント形式でお届けする。(原題:[ナンバーノンフィクション]堤聖也vs.比嘉大吾「史上最高の3分間」)

 赤コーナーで戦況を見つめるトレーナー、石原雄太はもう後がないと感じていた。長年ともに歩んできたWBA世界バンタム級チャンピオン、堤聖也のピッチは後半に入っても一向に上がってこない。4回に偶然のバッティングで切れた右目上の傷も気になっていた。

 石原は計算していた。たったいま終わった第8ラウンドは確実に失っただろう。ここまでの8ラウンドのうち、おそらく6つは挑戦者の比嘉大吾に取られている。ならば4ポイント差。ここから残りすべてを取ってもドローという厳しい状況だ。

 石原はスツールに座る堤の顔にワセリンを塗りながら口を開いた。

「もう倒しにいくしかないぞ」

 石原は決して声を張り上げない。いつも語りかけるように、言い聞かせるように、選手の目を見て指示を与える。厳しい内容を伝えるときでもその語り口は柔らかい。堤はデビュー以来、そんな石原のアドバイスに耳を傾けてきた。

田口良一に続き、2人目の世界王者を生み出した、石原雄太トレーナー Wataru Sato
田口良一に続き、2人目の世界王者を生み出した、石原雄太トレーナー Wataru Sato

比嘉が戦前に描いていた「勝利のイメージ」とは?

 青コーナーの比嘉は手応えを感じていた。第3ラウンド、堤のボディブローをもらって効かされたが、すかさず対処して傷口を広げなかった。ボディを打たれそうな距離に入ったらくっついて距離をつぶし、ボディ打ちを封じたのだ。

 比嘉が戦前に描いていた勝利のイメージは次のようなものだった。

「カットでTKO勝ち。もしくは判定。堤はいつも目の上を切って流血しますから。ジャブでカットさせてレフェリーストップに持ち込む。ジャブの差し合いは絶対に勝てると思っていたので」

 初回、比嘉のジャブが思惑通り決まり、ラウンド終盤には左フックもクリーンヒットした。堤の右目上部が早くもうっすら赤みを帯びる。比嘉とトレーナーの野木丈司はそれを見逃さなかった。

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photograph by Naoki Fukuda

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