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「銀が一番しんどいけど、彼女も…」元世界王者・重岡優大が熊本でカフェを始めた理由と“障害を負った弟”への思い【ボクシング・ノンフィクション】

2026/07/31
'23年4月16日のダブル世界戦で同日に兄弟そろって世界暫定王座を獲得。左が兄の優大、右が弟の銀次朗
幼き頃から切磋琢磨しあい、チャンピオンにまでなったふたり。そんなボクサーとしての栄光の日々がリング禍によって突如暗転する。介護が必要になった弟のため、兄は第二の人生を歩む決断を下した。(原題:[ナンバーノンフィクション]重岡優大「兄弟王者の夜明け前」)

 あの日からすでに1年が経とうとしている時期だった。交通量の多い熊本東バイパスから一本通りを入れば、朝の通勤ラッシュが嘘のように静かになる。今年2月、熊本市中央区上水前寺に開店したカフェ『Shinonome coffee』には、まだ春の陽光が差し込んでいた。オープンの午前8時半を少し過ぎた頃、ガラス張りの店のカーテンが上がった。元WBC世界ミニマム級チャンピオンの重岡優大はエプロン姿で軒先に出てくると、温和な笑顔を浮かべながら頭を小さく下げた。

「仕込みに手こずりまして」

 オーナー兼店主は作業中のカウンターにすぐに戻り、メニューに追加したばかりのベーグルの生地をゴツゴツした指でこねていた。のんびりしている暇は、ほとんどない。ひとり、ふたりと新規客、常連さんが訪れる。自家焙煎した3種類ある豆の特徴を説明し、好みに合うコーヒーを淹れていく。丁寧なハンドドリップ、親しみがこもる接客はこなれたものだ。

昨年8月に引退表明してから約半年後に地元・熊本市内で『Shinonome coffee』を開業。現役時代と比べると表情も穏やかに Daiki Watanabe
昨年8月に引退表明してから約半年後に地元・熊本市内で『Shinonome coffee』を開業。現役時代と比べると表情も穏やかに Daiki Watanabe

 世界王者でも巨万の財を築くのは井上尚弥らほんのひと握り。セカンドキャリアに悩むボクサーも少なくないが、優大は引退後に店を開くつもりで、実は現役時代にカフェでアルバイトしていたのだ。自分の店をもったいまは朝7時から準備を始め、閉店の17時半頃まで働き通し。締めの作業まで一人でこなす。いずれ夫婦で切り盛りする予定だが、昨年9月に結婚した妻は現在、今年2月に誕生した娘の世話に追われている。ここが踏ん張りどころ。29歳の新米マスターはエネルギーをみなぎらせていた。

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photograph by JIJI PRESS

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