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《棋聖戦インタビュー》山崎隆之43歳が語る“棋才の証明”と藤井聡太「小さい頃から将棋だけが…」「藤井さんにとって僕は…」

2024/06/04
大阪で取材に応じた山崎隆之八段
盤上を自由に泳ぐ「才」の棋士が、大舞台に戻ってくる。相手は絶対王者、失うものなどない。15年の雌伏を経て「最後の大勝負」に向かう誇り高き男は今、何を語るのか。(原題:[棋聖戦挑戦者インタビュー]山崎隆之「たとえボロボロになったとしても」)

 普段の散歩コースだという淀屋橋をゆったりと歩く山崎隆之は緊張の面持ちで、それでも口元には微笑を浮かべていた。大阪の空は分厚い雲に覆われており、撮影の途中で小雨が落ちてきたが、スーツの肩口に水滴がついても気にする様子はなかった。撮影の合間には表情を緩めて雑談に応じる。

 取材日の6日前に行われたボクシングの世界タイトルマッチ、井上尚弥対ルイス・ネリ戦について話が及ぶと「さすがにビックリしましたよ」と甲高い声を上げた。1ラウンドに井上が喫した衝撃のダウンのことだ。そのまま試合への感想が次々に飛び出したが、山崎の視線はチャンピオンへというよりも、挑戦者に向けられているように感じられた。

 井上尚弥、大谷翔平、そして藤井聡太。ジャンルこそ違えど、現代の勝負事における最強の日本人といえばこの3人だと私は思う。山崎は、その絶対王者に挑む資格を得たばかりだった。

 4月22日、山崎は第95期棋聖戦挑戦者決定戦で佐藤天彦九段を破り、藤井棋聖への挑戦権を獲得した。山崎がタイトル戦の舞台を踏むのは2009年の第57期王座戦以来2度目。約15年ぶりというブランクは、史上2番目の長さだ。

 山崎は43歳。一般的には下り坂に差し掛かる時期に、なぜ結果を出せたのか。

「B級1組順位戦で陥落しそうになって、今年に入ってかなりの危機感を抱いていた。2月は普及の仕事を断って若手棋士と将棋を指していました。3月に入ってからは少し状態も上がっていました。結果的に最後は3連敗してしまったのですが、競争相手が敗れて首の皮一枚助かりました。降級の重圧から解放されたのと、最近は長考した手が悪手であることが多かったので、棋聖戦では決断よく指そうと開き直ったのがいい方向に出たのかもしれません」

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photograph by Shinryo Saeki

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