39年前、父がダービージョッキーとなる数カ月前に生を享けた男は、やがて騎手となって、調教師となり、約束の地に辿り着いた。皐月賞2着は栄光への序章。大舞台に送り出す逞しき愛馬は、世代の主役を張る器だ。(原題:[対抗馬の肖像]コスモキュランダ「気鋭の匠が貫く夢」)
加藤士津八厩舎の勢いがいい。
1985年うまれの39歳、厩舎を開業して6年めの新進調教師は、5月10日現在13勝で関東のリーディング4位に位置している。皐月賞2着のコスモキュランダを筆頭に、コラソンビート、クリスマスパレードなど3歳馬の活躍がめだっている。
父の加藤和宏は名門・二本柳俊夫厩舎のエースジョッキーとして'85年にシリウスシンボリでダービーに勝ち、ホウヨウボーイ、アンバーシャダイなど多くの名馬に乗ってきた人だが、仲のいい根本康広、木藤隆行と「ひょうきんトリオ」などと呼ばれた、あかるく楽しい騎手だった。息子の加藤士津八は'03年に騎手デビューしたが9年で20勝という成績に終わった。周囲からは「加藤和宏の息子」と注目され、二世騎手のプレッシャーもあったが、「ある程度までいくと、あきらめがついた」と言う。
「ぼくは、勝てそうなときとか、緊張して、体が硬くなっちゃうんです。いま思うと、ジョッキーに向いてなかったなと(笑)」
準備を怠らず、せりは最初から最後まで見た。
父からは「騎手になったら調教師になるのがあたりまえ」と言い聞かされていたこともあり、気持ちはすぐに切り替えられた。父の厩舎で調教助手になると、調教現場の仕事を経験しながら勉強し、32歳で調教師試験に合格する。騎手のことがあるから「調教師になったときに失敗したくなかった」と言う加藤は、開業するまでの「技術調教師」のときからしっかりと準備をし、この6年間で理想とする厩舎のかたちをつくりあげてきた。好調の要因はそこにある。
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photograph by Kisei Kobayashi