外国人として初めて日本のダービーを制覇したのは、イタリアからやってきた24歳の青年だった。今やJRAトップジョッキーとなった男の素顔と、知られざるルーツを、伊在住のジャーナリストが描く。
「髭を剃る時間もなく靴も泥だらけのままで、申し訳ありません」
会って開口一番、ミルコ・デムーロ騎手はそう詫びた。赤みがかった焦げ茶色の艶やかな革靴が、ぬかるみに半分沈んでいる。周囲の関係者の足元は揃ってゴム長靴かスニーカーの中、ひとり自分のスタイルを貫くことを辞さない頑なさが見える。気を抜かない足元に、ああイタリアの人だとも思う。
皐月賞直前の追い切りの後、茨城県の美浦トレーニングセンターに彼を訪ねた。降ったりやんだりの数日後、久しぶりの青空に新緑が映えて美しい。2003年に第70回日本ダービーで、日本競馬史上初めて外国人騎手として優勝をしてから、16年。当時24歳だったイタリアの青年も、40歳になった。
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