#1073
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「7着のところを6着に」「垣根を乗り越えて…」苦労人・南井克巳が語るナリタブライアン秘話【ファイターと呼ばれた男】

2023/05/19
かつてGIに縁がないと囁かれた晩成騎手が不惑で出会った“シャドーロールの怪物”。今年2月、定年を迎えた闘志のホースマンが、55年の旅路を彩った、あの豪脚を回想する。

 いつもジョークを交えて饒舌に語ってくれる南井克巳騎手は、ビッグレースが近づくと貝になってしまう人でもあった。1994年、ナリタブライアンのダービーが近づいたときはまさにそれで、日に日に無口になっていく様子は見ていて面白いほどだった。

 ダービーを勝ち、三冠を達成したあと、有馬記念直前のNumber356号では、当時の競輪界の絶対王者、吉岡稔真選手との対談をお願いして、大一番直前の南井の本音を引き出すことを企んだ。競輪ファンでもある南井は「俺は徹底した穴狙いだから吉岡さん絡みの車券は買ったことがないんだ。ナリタブライアンも吉岡選手ぐらい強いよ」と、終始ご機嫌でこちらの意図にハマってくれたことを懐かしく思い出す。

――単勝120円に支持されたダービー。緊張したでしょうね。

「ゲートだけ、本当にドキドキしていました。断然人気だからじゃなくて、この前年のダービーで、マルチマックスに騎乗してスタート直後に落馬していたからです。ケガはしなかったけど、あんなに恥ずかしかったことはなかった。集合合図前に4コーナーのポケットのところで輪乗りをしているわけですが、あそこに至ってもまた落ちたらどうしようかと、そればっかり考えていたんです」

ナリタブライアン  Keiji Ishikawa
ナリタブライアン  Keiji Ishikawa

――無事にゲートを出たあとは、不安に感じたシーンは1回もなかった?

「なかったなあ。道悪もこなしてくれると思ってたけど、安全策で外目を選択。直線は大外を回ってきました。ヨレたとか言われたけど、そうじゃない。わざと外を回したんだ。直線に向いて、馬場がいいところ、芝の色が明らかに違うところにナリタブライアンを誘導しただけでね。最初からそうするつもりでした。

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photograph by Keiji Ishikawa
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