'22年北京五輪ノルディックスキー・ジャンプの金銀メダリストである小林陵侑が、この4月からプロに転向し、新たな道を歩み出した。'15年から8年間在籍した土屋ホームを3月いっぱいで退社。自身の欧州での愛称から名付けた「チームROY(ロイ)」を設立し、プロとして活動していくことを表明した。
目指すのは日本ジャンプ界の底上げ。今季の全試合を終えた4月4日には欧州から帰国した羽田空港で取材に応じ、「北京五輪でメダルを獲り、このままではダメだと思った。日本のジャンプを盛り上げたい。底上げしたい。この競技を始めたいと思ってもらえるような選手になりたい」と熱量を感じさせる口調で語った。
「兄貴みたいな存在」と慕う土屋ホームの葛西紀明選手兼監督には、北京五輪後に食事をともにした際にプロ転向の決意を伝えていた。それから約1年。満を持してのプロ転向だ。今後は企業単位で強化を図る現在のスタイルから一歩踏み出し、「チームの隔てなく、みんなで練習していきたい」と言う。同い年の高梨沙羅らと故郷の岩手県八幡平などでイベントを開催するアイデアもある。
「底上げ」として意識するのは選手としての競技力向上にとどまらない。喫緊の課題の一つは規定違反による失格が頻発しているスーツ問題。北京五輪混合団体で高梨が失格となったケースはいまだ記憶に鮮明だが、日本はルールが厳格化した今季も対応に遅れ、小林も2月の世界選手権個人ノーマルヒルで失格の憂き目に遭った。
「(スーツ規定は)次のルール改正で大幅に変わるので、そこで置いていかれてはいけない。僕の向いてる方向をみんなが一緒に向いてくれたらいい。(葛西)ノリさんみたいに背中で見せられたらいいかなと思う」とジャンプ界全体への波及を期待する。
北京五輪の翌シーズンだった今季はシーズン半ばから徐々に調子を上げ、3月の世界選手権ラージヒルでは自身初の表彰台となる銀メダルを獲得。W杯では3勝し、通算の勝利数を歴代7位の「30」まで伸ばした。この先に見据えるのは'26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪での2大会連続の個人金メダル、そして団体の表彰台。高い志で道を切り開くエースは「ワクワクしている」と目を輝かせている。