負傷に苦しみながら、ギリギリのコンディションで最終ラインを支えた男は燃え尽きることができなかったことに苛立っている。そしてアーセナルという最高峰に身を置くからこそ見えた、日本に足りないものとは。
困惑した表情を浮かべた冨安健洋が、クロアチアの選手の後ろをゆっくりと歩いてくる。
打ちのめされたディフェンダーは、悲しみや、怒りすら通り越した面持ちで消え入りそうな言葉を絞り出す。日本代表がベスト16で敗退した現実をどう捉えればいいのか、胸の中で複雑な思いがぶつかりあっているように見えた。
残酷な世界、と冨安は言った。
「なんて言えばいいか分からないです。残酷な世界だなと思うし、勝ちに値しなかった。ひとつ言えることは、僕個人のパフォーマンスが良くなくてチームに迷惑をかけたこと。大事な試合でパフォーマンスを発揮できない自分に、苛立ちしかない。感情の整理をするのが難しい」
冨安にとって初めてとなるワールドカップは失望の結果に終わった。
ドイツとスペインという強豪と同じグループを1位で勝ち抜いたことは、ひとつの成果だと思っている。しかし冨安には、日本代表に対して自らが大きな貢献をできたという手応えはほとんどない。
いつかプレーすると思い描いた舞台に万全の状態で挑めた時間は、あまりにも短かった。
日本代表の守備の絶対的存在となるはずだった。
24歳で迎える、初めてのワールドカップにかける思いは人一倍強かった。今夏、地元の福岡でアビスパの若手選手たちとボールを蹴り、ワールドカップについて語っていた時のことが記憶に残っている。
「夢のひとつです。サッカー選手である以上ワールドカップという舞台で国を背負って戦うというのは名誉あることなので」
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photograph by Ryu Voelkel