4年前、初めてのW杯で直面した「出場機会なし」という現実。危機感を胸に海を渡り、男は唯一無二のプレイヤーへと変貌を遂げた。カタールに向けた覚悟の日々は、彼をいかに成長させたのか――。
まだ遠藤航は多くを知られていない。
ブンデスで2年連続「デュエル勝利数1位」という肩書きからイメージされるのは、屈強な守備職人といったところだろうか。
ベスト8以上を目標に掲げる森保ジャパンにとって欠かせない遠藤の本当の強さ。ロシアW杯後に決めた、3つのヘディングでのゴールにそのヒントがある。
2度、振り上げたこぶしと雄叫びが、遠藤の胸の内を表していた。
普段は冷静である。感情を大きく表現するシーンは多くない。
2018年7月18日、ロシアW杯によって中断していたJリーグが再開した最初の試合、遠藤は2得点を決めた。
2点目が真骨頂だ。左からのコーナーキックに上半身を前傾させるように飛び込むと、頭でボールを逸らした。そのボールは対角線上のゴール隅へと吸い込まれ、浦和レッズは試合を決定づける3点目を獲得する。
その喜びように、歓声に沸くホーム、埼玉スタジアムのサポーターたちは「ロシアW杯でピッチに立つことができなかった悔しさを、日本に戻ってきてぶつけた」と解釈した。
しかし、ピッチ上の何人かと――もちろん遠藤も、その感情が違うところから生まれているのを知っていた。遠藤は言った。
「気合いが入っていましたね、めちゃくちゃ。僕の中でホームラストゲームだ、って思っていたから」
ロシアW杯から帰国して数日たった頃、遠藤のもとにベルギーリーグ、シント・トロイデンから獲得のオファーが舞い込んだ。
「行かない」という選択肢はなかった。数週間前、ベンチから眺め続けた「最高の舞台、W杯」が、遠藤に危機感を植え付けていたからだ。
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