日本代表での主将就任。リバプールへの電撃移籍。30歳で迎えた2つの転機に、この男は何を思うのか。新天地で確かな手応えを掴みつつあるMFを訪ねると、彼は冷静に、しかし力強く、自らの心境を語り始めた。
前歯の欠けたオヤジが、僕に向かって毛むくじゃらの中指を立てていた。赤いユニフォームを着た日本人を挑発するように、両目を見開いて何かを叫んでいる。その英語は聞き取れないが、ここには書けない言葉に決まっている。そういえば昔はフーリガンと呼ばれた荒くれものたちの国だった。今では洗練されたライトブルーのシャツをまとい、タバコの火はスタンドから消えた。ひとしきり吠えた男も、黒いコートのポケットに手をつっこみ、コッソリと電子タバコを口に咥えた。
2023年11月25日。エティハド・スタジアム。プレミアリーグの首位攻防戦、1位マンチェスター・シティは2位リバプールをホームに迎えた。世界で初めて鉄道で繋がれたその区間。距離は電車で1時間。何故か近くなればなるほどに、敵意とフットボールは燃え上がる。
試合の均衡をやぶったのは、シティの最前線に君臨するノルウェーの神童、アーリング・ハーランドの左足。オランダ代表キャプテン、フィルジル・ファン・ダイクの背中を捉えてターン、一気に流し込む。後半、対するリバプールはイングランド代表トレント・アレクサンダー=アーノルドがするすると前線まで走り込み、強烈なミドルを叩き込んだ。アシストはエジプトの英雄、モハメド・サラー。
ピッチには誰もが知る世界のサッカー界の主役たち、選ばれた22人しかいない。そして後半40分。アルゼンチン代表アレクシス・マクアリステルに代わって投入されたのが、日本のキャプテン、遠藤航だった。
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photograph by Naoyoshi Sueishi