井上尚弥の稀有な武器の一つとして挙げられるのが、左のボディブローだ。腹を打たれた対戦相手が崩れ落ちるシーンからは、見ている側まで顔をゆがめてしまうほどの威力が伝わる。
大橋ジムの大橋秀行会長は、入門当初の井上について、こう振り返る。
「ボディーはあんまり得意じゃないな、というのが最初の印象ですね。逆にいえば、(ボディブローを習得することで)もっと伸びるなって」
期待したとおり、井上は短期間のうちにボディーへの攻撃を上達させた。19歳で迎えたデビュー戦では、いきなり右拳を敵のみぞおちに当ててダウンを奪い、左のボディブローで戦闘不能に陥らせた。
そもそも、ボクシングにおいてボディブローはなぜ重要とされるのか。それは腹部に急所があるからだ。
代表的なものが、みぞおちと肝臓。横隔膜に響くみぞおちへの打撃は呼吸を困難にさせ、周囲を筋肉で守られていない肝臓は、打たれることで激しい鈍痛と身体機能の低下を引き起こす。肝臓は体の右側に位置しているため、左の拳で狙うことになる。
大橋は言う。
「みぞおちは、ウッと力を入れておけば耐えられる。逆に、息を吸っているときにパンチをもらうと耐えられない。肝臓は力を入れても無理。根性でなんとかなると思う人もいるだろうけど、根性でも耐えられないものがあるんですよ」
大橋はボクシングを始めた中学生のころ、その威力を思い知った。
1980年、村田英次郎の挑戦を受けるため、WBC世界バンタム級王者のルぺ・ピントールが来日。大橋の兄、克行が練習相手を務めた。帰宅した克行は、ピントールのボディブローを弟に伝授したという。
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