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[俺の尚弥論(1) 左ボディー]大橋秀行「勝負を決める2種類の“魔球”」

2022/06/17
1965年3月8日、神奈川県生まれ。'85年にプロデビュー。'90年にはWBC世界ストロー級王座を獲得。防衛戦でリカルド・ロペスに敗れるも、'92年WBA世界ストロー級王者に返り咲き。'94年2月に現役引退。引退後に横浜で大橋ボクシングジムを開く。24戦19勝(12KO)5敗
左ボディブローで1990年に世界王座を奪取した“150年に1人の天才”はモンスターの名付け親としても知られる。リングサイドで活躍を見守ってきたジムの会長が自らの経験を交えながら、愛弟子の左ボディーの威力を解き明かした。

 井上尚弥の稀有な武器の一つとして挙げられるのが、左のボディブローだ。腹を打たれた対戦相手が崩れ落ちるシーンからは、見ている側まで顔をゆがめてしまうほどの威力が伝わる。

 大橋ジムの大橋秀行会長は、入門当初の井上について、こう振り返る。

「ボディーはあんまり得意じゃないな、というのが最初の印象ですね。逆にいえば、(ボディブローを習得することで)もっと伸びるなって」

 期待したとおり、井上は短期間のうちにボディーへの攻撃を上達させた。19歳で迎えたデビュー戦では、いきなり右拳を敵のみぞおちに当ててダウンを奪い、左のボディブローで戦闘不能に陥らせた。

 そもそも、ボクシングにおいてボディブローはなぜ重要とされるのか。それは腹部に急所があるからだ。

 代表的なものが、みぞおちと肝臓。横隔膜に響くみぞおちへの打撃は呼吸を困難にさせ、周囲を筋肉で守られていない肝臓は、打たれることで激しい鈍痛と身体機能の低下を引き起こす。肝臓は体の右側に位置しているため、左の拳で狙うことになる。

 大橋は言う。

「みぞおちは、ウッと力を入れておけば耐えられる。逆に、息を吸っているときにパンチをもらうと耐えられない。肝臓は力を入れても無理。根性でなんとかなると思う人もいるだろうけど、根性でも耐えられないものがあるんですよ」

 大橋はボクシングを始めた中学生のころ、その威力を思い知った。

 1980年、村田英次郎の挑戦を受けるため、WBC世界バンタム級王者のルぺ・ピントールが来日。大橋の兄、克行が練習相手を務めた。帰宅した克行は、ピントールのボディブローを弟に伝授したという。

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photograph by Asami Enomoto

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