怪物は、最初から怪物だったわけではない。
少なくとも、第69回全国高校サッカー選手権に出場した2年生の小倉隆史に、1年後の片鱗を見出すことは難しかった。
彼と四日市中央工は、初戦で姿を消した。1-5という惨敗だった。
「相手は習志野。ボールをつないでくるチームってイメージがあったんですけど、いざ試合になったら向こうは蹴ってきた。それでパニック。うちは2年生中心のチームだったんで、想定外の事態に対する対応力がまったくなかった」
会場となった習志野・秋津サッカー場のピッチは、前日からの雨と霜で荒れていた。習志野の指揮官は、後に流通経済大柏を率いてその名を全国に轟かせることになる、本田裕一郎だった。このカードは前年度の選手権、さらにはこの年のインターハイでも実現しており、いずれも四中工が勝利を収めていた。
今ならばわかる。習志野がやり方を変えてきたのは必然だった。変えてこない方が不思議だった。だが、2年生を中心としていたチームに、そこまでの洞察力はなかった。意気揚々と、しかし無防備のまま臨んだ試合で、彼らは哀れなほどに蹂躙された。
「会場は完全に習志野の地元でしょ。なのに、最後の方はスタンドから“かわいそうやな”みたいな空気が流れてたの感じましたもん」
1-5というスコアに、同情の気配。
まだ選手権の優勝こそなかったが、自分たちが名門の一員であり、東海の雄であるという無邪気な誇りが小倉たちにはあった。
だが、1-5というスコアと、習志野オリジナルの応援曲“レッツ・ゴー習志野”に乗って伝わってきた同情の気配は、彼らの幼いプライドを打ち砕き、踏みにじり、嘲り笑った。涙も出ない惨敗のあと、小倉は誓った。
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