クライマーは常に死と隣り合わせだ。まして、たいていが単独で世界の岩壁の難ルートに挑むクライマーとなると死は自分の影に等しいだろう。ある新聞は著者を「天国に一番近い男」と呼んだ。友人たちは「生きているのが不思議だ」と言った。著者はなぜ自分が40年も死なずに登り続けてこられたのかを考える。若くして亡くなった友人たちに経験を「伝えておけばよかった」という思いにもかられる。そして、本書が生れた。短い本だが、岩壁に張られたロープのような緊張感が漂っている。
最初の墜落は中学生の時、千葉・鋸山の8m程の岩壁だ。落ち葉のクッションで助かった。高校生の時は、城ヶ崎海岸で落ちてきた相棒を両手で受け止め左腕骨折。その1年後、落下して痙攣を起こした人を助けようと口の中に指を入れて舌を引き出すうちに、その人は白目をむいて死んでしまう。それから舞台はヒマラヤ、アンデス、グリーンランドなどの世界の岩壁に移る。成功があり敗退がある。著者の名を広く知らせた沢木耕太郎の『凍』のギャチュン・カン北壁からの奇跡の生還後の活動が主になるが、右足の指すべてと手の指を5本も失っても登り続けるのは、それが著者の生きることそのものだからだ。
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