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<夏の甲子園・涙の4度目V> 大阪桐蔭「平成最強校の見えざる執念」

2014/09/16
本命中の本命。いつしかそう呼ばれるようになった。夏の甲子園での勝率は88%、通算29勝4敗である。今年の主将とエースは福岡出身、4番は広島出身。“留学生”が多いことから、「素材」を羨む声も聞く。だが、日本一の理由はそれだけか。昨秋の蹉跌から今夏のVまで、王者の人知れぬ背水のドラマを追う。

 日本一「臆病」な監督だから――。大阪桐蔭の強さの秘密は、そこに尽きる。

「うちが横綱って言われるのは、僕の体型を見てじゃないですか」

 そう冗談を言って笑うのは、1998年から大阪桐蔭を指揮する西谷浩一だ。西谷の采配は堂々たる恰幅とは対照的に実に細心だ。

 自身、4度目となる全国制覇を遂げたこの夏も、その性向は随所に見られた。

 乱打戦となった準決勝の敦賀気比戦。1回表にいきなり5失点し、その裏、1点を返しなおも無死一、二塁と攻め立てると、4番の正随(しょうずい)優弥にカウント2ボール2ストライクと追い込まれながらも送りバントを指示。決勝の三重戦でも、4-3と1点リードの8回裏、無死一塁とし、またしても正随に送りバントのサインを送った。西谷が話す。

「慎重派なのは間違いないでしょうね。相手ピッチャーの映像も、もうええやろ、というぐらい見せますから」

2番手投手は試合中のブルペンで100球近く投げることも。

 大阪桐蔭には「タイミング取り」という練習がある。対戦する投手の映像を見ながら、素振りを繰り返すのだ。

「タイミング取りを朝10分やって、練習が終わってバスに乗り込む前に10分やって、宿舎についてご飯を食べる前に10分やって、食べ終わったら各自で10分やらせて、そのあと仕上げに全体でまた10分やるとか(笑)」

 大阪桐蔭は試合中、2番手投手も休む暇がない。初回からブルペンに入りまずは肩をつくる。中盤に、もう一度つくる。終盤になったら、いつでも登板できるようキャッチボールをしながら肩を温めておく。どんなに万全な展開でも、西谷から「何がおこるかわからん」と投球練習しておくよう促されるため、ブルペンで100球近く投げることもざらだ。

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photograph by Shota Matsumoto

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