ルビン・カーターと袴田巌。長期間自由を奪われた2人の元プロボクサーの人生は、今年大きな転機を迎えた。カーター氏はデンゼル・ワシントンが主演した映画『ザ・ハリケーン』のモデル。'66年に起きた身に覚えのない殺人事件の犯人とされた人物だ。
2人が冤罪事件に巻き込まれることになった大きな要因は「偏見」だったろう。ボクサーに対する偏見。そしてカーター氏の場合は人種的偏見も重なっていた。
私的な回想を挟みたい。'80年に最高裁の確定判決が出る直前、今は亡き評論家の郡司信夫さんと一緒に東京拘置所を訪れ、袴田さんと面会した。現役時代は無口な人と聞いていたが、長期間の拘束下で必死に学ばれたのだろう、限られた面会時間に袴田さんは我々に口を挟む隙も与えず語り続けた。無実だから助けてくれとは言わず、「この裁判は不当、断固糾弾されるべきだ」と、まるで正義派の弁護士のように迫力満点に訴えた。帰途、郡司さんが「袴田君はやっていないよ」と言った。温厚篤実で物事を簡単に断定しない人だったので驚いた記憶がある。
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photograph by BOXING BEAT