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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「競技者として悔いなく死ねる」ノルディック複合・渡部暁斗がミラノで見せた“あきらめの美学”「いまはちゃんとアスリートです」第一人者の27年間
text by

雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA
posted2026/03/01 11:01
今季限りの引退を表明している37歳の渡部暁斗。自身6度目となる最後の五輪はメダルなしに終わったが、その心中は晴れやかだったという
子育てはトレーニングとは違う。すべてを自分の思うままには進められない。エゴを捨て、流れに身を委ねる。あきらめが肝要だ。
それは父親としての修練であるとともに、できないことを受け入れていく競技者としての老成のプロセスも兼ねていたのかもしれない。気づくと、子どもはいつのまにか着替えができるようになったり、一人でトイレができるようになっていた。両立を求めてはやる渡部の心持ちも落ち着いていった。
「それも妻や保育園のおかげというか、人に頼りっきりですけど、自分が何かしてあげなくても、社会に揉まれて学んで勝手に子供は育っていくんだなと。できているかできてないかは別として、今は地に足はついています。子どもはいるけど、ちゃんとアスリートです」
模索した競技者としての「いい終わり方」とは?
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新しい家族の存在に慣れ、妻からの苦言も受け止め、気持ちを定めて「いい終わり方」を模索し始めたのはようやく先シーズンのことだった。その遠征中、たまたま読書のおすすめリストに『徒然草』の一節が表示された。
なんの気なしに読んでみると、『花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは』という一節が、自分の競技人生とぴたりと重なった。
「決して全盛期だけがよかったわけでもなくて、人間的な悩みの移り変わりがあって、キャリアの終盤に悩んでいる自分もいる。正直パフォーマンスとしては散っていても、それも含めて競技人生が美しかったと感じられる終わり方にしたいなと思ったんです」
そう考えると、上位争いできない試合でも楽しめるようになってきた。徹頭徹尾、競技だけに向き合っていた時代だったらそうはいかなかったかもしれないが、これもまたあきらめの境地なのだろう。

