スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ギル・メッシュと去り際の優雅。
~10億円を放棄した男の決断~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2011/02/14 10:30
昨シーズンは9試合に先発、勝ち星ゼロに留まった。通算防御率は4.49.奪三振数は1050だった
「僕は安息できる場所に戻っただけのことだ」
私には、彼らを責める気はない。ただ、メッシュの決断には軽い驚きを覚えた。引退発表の記者会見で、メッシュはこういった。
「英雄的行為などとは思わないでほしい。僕は安息できる場所に戻っただけのことだ。球団はすでに4000万ドルを超える大金を僕に払ってくれた。これ以上の金銭を受け取るのは、どう見てもまっとうなことではない」
32歳の青年がすらりといえる台詞だろうか。プライドとか痩せ我慢とかいった言葉を付け足しても、解釈は急所に届かない。「筋を通す」とか「足るを知る」とかいった言葉を投げても、かゆいところには手が届かない。
むしろメッシュは「できるだけ長く投げ続けたい」という「投手の夢」に身を委ねていたのではないか。そしていま、「投げ終えたと感じて」球界に別れを告げたのではないか。だとすれば、優雅だ。単純に聞こえるかもしれないが、私はライン・サンドバーグや野茂英雄の引退劇を想起する。彼らもまた「できるだけ長く働き続け、働き終えたと感じて」球界を去っていった優雅な選手たちだった。