第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「大手町で山口を胴上げしよう」チームの合言葉になった早稲田大学駅伝主将・山口智規が箱根駅伝ラストランで2区に懸ける思い
posted2025/12/25 10:00
11月の全日本大学駅伝で7区を務めた山口智規。今季は駅伝主将としてチームを牽引する
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和田悟志Satoshi Wada
photograph by
Shiro Miyake
「皆さんが期待するのは駅伝の優勝だと思いますので、そこを目指していかなければならない。一方で、個人をしっかり育てることも大事だと考えています。日本を代表するような選手を育成していきたい。そういった選手が、6人、8人、10人と揃っていけば、出雲駅伝や全日本大学駅伝、箱根駅伝で戦えるチームになっていくと思います」
2022年6月の就任会見で、早稲田大学の花田勝彦駅伝監督はそう話した。駅伝で勝利を目指すことと共に、指揮官が就任以来大事にしてきたのが『圧倒的な“個”』の育成だ。
今季前半の早大は、まさに、その“個”が光った。
「個の強さが際立ってきた。目指すチームに近づいてきたかな」
花田監督もこんな言葉を口にしていた。
前回の箱根駅伝5区で2位と活躍した工藤慎作(3年)は、2月の日本学生ハーフマラソン選手権で日本人学生歴代2位となる1時間00分06秒の好記録で優勝し、7月のFISUワールドユニバーシティゲームズのハーフマラソンでは金メダルを獲得した。
さらに鈴木琉胤、佐々木哲の2人のルーキーは即戦力としてトラックで鮮烈なインパクトを残した。5000mで日本高校歴代2位となる13分25秒59の記録を持つ鈴木は、留学生が相手でも果敢なレースを仕掛け、関東学生陸上競技対校選手権(関東インカレ)では5000mで2位に入った。3000m障害を得意とする佐々木はシニア勢を相手に奮闘し、アジア陸上競技選手権4位、日本陸上競技選手権(日本選手権)3位と躍動した。
そんな後輩たちに負けじと存在感を示したのが、駅伝主将の山口智規(4年)だ。
学生ラストシーズンの奮闘
6月の日本学生陸上競技対校選手権(日本インカレ)では、1500mと5000mの2種目で学生日本一に。そのレース内容も圧巻だった。1500mは山口自身にとっては「本職ではない」種目だが、その本職の選手を差し置いて独走で優勝を飾った。一方の5000mでは、10000mとの二冠を狙う日本大学の留学生シャドラック・キップケメイをラストスパートで突き放して、先頭でフィニッシュした。この2種目で日本人が二冠を獲得するのは史上初めてのことだった。
7月の日本選手権でも健闘を見せた。1500mに出場した山口は、日本人学生歴代3位(学生歴代5位)となる3分38秒16の好記録で2位に食い込んだ。その翌週のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会では、5000mで日本人学生歴代3位(学生歴代7位)となる13分16秒56 をマーク。実業団の外国人勢をも破って1着でフィニッシュし、“速さ”のみならず“強さ”を存分に見せつけた。
「今まで自分の思うような結果を残せないもどかしさがありましたが、それを払拭できたシーズンになりました」
そう言って今季前半を総括していた山口だが、決して心から満足していたわけではなかった。なぜなら、今季は東京2025世界選手権(東京世界陸上)出場を個人の目標にしてきたからだ。2月から3月の2か月間にかけ、単身でオーストラリア・メルボルン遠征を敢行したのも、自身のレベルアップを図るためだった。
しかし、山口がその舞台に立つことはなかった。選考レースとなった7月の日本陸上競技選手権1500mに出場して2位に入ったものの、代表の座には届かなかったのだ。


