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「大手町で山口を胴上げしよう」チームの合言葉になった早稲田大学駅伝主将・山口智規が箱根駅伝ラストランで2区に懸ける思い 

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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photograph byShiro Miyake

posted2025/12/25 10:00

「大手町で山口を胴上げしよう」チームの合言葉になった早稲田大学駅伝主将・山口智規が箱根駅伝ラストランで2区に懸ける思い<Number Web> photograph by Shiro Miyake

11月の全日本大学駅伝で7区を務めた山口智規。今季は駅伝主将としてチームを牽引する

 9月21日、東京世界陸上の最終日。国立競技場の満員のスタンドに山口の姿があった。前日まで菅平高原(長野県)で合宿中だったため唯一観戦できたこの日、山口が主戦場としている5000mの決勝が行われた。目の前で繰り広げられた世界一決定戦は12分台で決着。山口は世界との距離を少し感じつつも、「自分もこの舞台に立ちたい」という思いを強くした。

 早大といえば、在学中もしくは卒業後に世界に羽ばたいたOBが多い。瀬古利彦、渡辺康幸、竹澤健介と名前を挙げていけば枚挙にいとまがない。もちろん花田監督もそのひとりだ。現役選手でも、マラソン日本記録保持者の大迫傑(リーニン)、ハーフマラソンで日本初の59分台ランナーとなった太田智樹(トヨタ自動車)がいる。早大競走部の歴代ランキングを見ると、錚々たる顔ぶれだ。

 その中にあって、山口は1500mと5000mの早大記録を保持し、10000mで歴代5位、ハーフマラソンで歴代2位(早大記録保持者は工藤)と、なんと4種目に名前を刻んでいる。シューズ等の進化もあり単純にタイムの比較はできないものの、111年続く早大競走部の歴史の中で、山口が傑出した選手のひとりであることは間違いない。近い将来、世界で戦う姿が見られるのではないか。

駅伝主将の責務を支えるチームメイトの存在

 個人種目で圧倒的なパフォーマンスを連発した一方、山口には駅伝主将という顔もある。今季は、ことあるごとに「チームで勝ちたい」「箱根駅伝で優勝したい」という言葉を口にしてきた。

 だが入学当初の山口は、「チームに所属している以上、『仕方ないから駅伝に出る』というスタンスで入学した」と胸中を語ったことがある。そんな下級生の頃を振り返れば、現在の心境は考えられないほど変化した。

「もちろん負けるのは嫌ですから。それに、同学年のチームメイトの存在が大きいです。(伊藤)幸太郎だったり、宮岡(凜太)だったり、箱根駅伝にかける思いが強い選手たちを見ると、一緒に結果を残したいなって思います。白石(幸誠・主務)をはじめとするスタッフも本気で取り組んでくれている。4年間かけてこのチームに愛着が湧きましたし、恩返しがしたいという気持ちが強くなりました」

 そんな駅伝主将の想いに応えるべく、『大手町で山口を胴上げしよう』がチームの合言葉になっている。

「1年目は思い通りに走れなかった山口は、2年生、3年生といろんな経験を積みながら、4年生になって非常に信頼できる、本当に誇りと思える選手に成長しました。チーム一丸となって結果を出して、彼を胴上げしたい。私もその胴上げの下に加わりたいと思っています」

 花田監督にさえ、そんな思いを抱かせる山口は、今や押しも押されもせぬチームの大黒柱だ。今回の箱根駅伝では3年連続の2区起用が濃厚と見られる。

「1時間5分台はマストで走らないといけないと思っています。主要区間でアドバンテージを築くのはかなり難しい時代なので、とにかく置いていかれないようにしつつ区間賞争いをしたいです」

 山口が言うように、各校のエースが集う2区はタイム差がつきにくい。それでも、チームを勢いづけることはできる。2年前には2区の早大記録(1時間06分31秒)を打ち立て、今季は出雲駅伝2区で区間賞を獲得して仲間を鼓舞してきた。箱根駅伝ラストランでも「花の2区」で快走を誓っている。

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