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「嫌われてるんですかね」敗者・那須川天心が“初めてのブーイング”に本音ポツリ「優しくしてよ…」井上拓真への大歓声を呼んだ井上尚弥の“ある行動”―2025年下半期読まれた記事
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/12/26 11:01
井上拓真に敗れ、悔しさを噛みしめながら引きあげる那須川天心
「サウスポー対策」「接近戦が弱点」拓真陣営の狙い
4ラウンド終了時の公開採点でジャッジ三者とも38-38とイーブンだったことも、その後の試合展開に大きな影響を及ぼした。流れが拓真に傾きかけていたのは間違いないが、筆者の採点は39-37で天心。そういった見方も少なくないなかでの「38-38」だった。試合後、帝拳ジムの浜田剛史代表は次のようにジャッジについて言及した。
「4ラウンドが終わった時点でいい流れだと思いましたけど、(スコアは)イーブンだった。このやり方ではポイントにならないのかと思いました」
もちろん、拓真が反撃に転じることは天心陣営も想定しており、対策も用意していたはずだった。しかし、その対策をリングで出すことができない。ここが勝負の分岐点だった。「なぜ拓真の圧に対応できなかったか?」という問いに対して、試合後の天心は明確な解答を見つけられずにいた。
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「何なんですかね。やっぱり距離感がうまかったですね。自分が本当に練習しているものが出せない。ずっと拓真選手の間合いだったり、距離感にいたことが敗因だったのかなと思いますね」
興味深いことに、決戦翌日の一夜明け会見で拓真はこんなことを述べている。
「作戦がハマったというのもあるし、練習したことをそのまま出せました」
練習したことを出せた者と出せなかった者の差が、そのまま明暗を分けたといえるのではないか。本人の言葉通り、作戦がハマったことも大きかったのだろう。大橋ジムの大橋秀行会長はアマ七冠の同門・坂井優太、アマ九冠の堤麗斗(志成)ら実力派サウスポーとのスパーリングによる対策が活きたと明かした。
「天心がサイドステップをするときを狙っていた。その対策練習をパートナーとしていたので、すぐ反応することができた。あのタイミングで来るサウスポーに慣れていた。試合を見ていて、スパーリングのおかげだと思いましたね」
対策をしてきたのはサイドステップだけではない。過去の試合から「接近戦に弱い」と分析。その弱点をつくために要所でアッパーを打ち込んでいたことも効果的だった。とりわけ8ラウンドに放った連打は試合の流れを決定づけるものだった。大橋会長はこう話す。
「接近戦がやっぱり弱点だったよね。(自分たちの読みが)当たっていると思いました」


