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「嫌われてるんですかね」敗者・那須川天心が“初めてのブーイング”に本音ポツリ「優しくしてよ…」井上拓真への大歓声を呼んだ井上尚弥の“ある行動”―2025年下半期読まれた記事
posted2025/12/26 11:01
井上拓真に敗れ、悔しさを噛みしめながら引きあげる那須川天心
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
2025年の期間内(対象:2025年9月~12月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。井上拓真vs那須川天心部門の第3位は、こちら!(初公開日 2025年11月28日/肩書などはすべて当時)。
流行りのChatGPTも、勝敗にシビアな海外のブックメーカーも、この結末はほとんど予想できなかった。人工知能や識者でも予測できないからこそ、ボクシングは面白い。
これぞリアルファイトの醍醐味というべきか。那須川天心(帝拳)と井上拓真(大橋)の間で争われた空位のWBC世界バンタム級王座決定戦(11月24日/TOYOTA ARENA TOKYO)は、拓真がユナニマス・デシジョンにより新王者となった。
兄・尚弥が観客を煽り…会場は「拓真のホーム」に
試合直前、巷の予想は「天心の勝利」に大きく傾いていた。では会場の雰囲気も天心のホームだったかといえば、意外にもそうではなかった。両選手の入場時から、拓真への声援の方がやや大きかったのだ。
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選手コールで拓真の名前が読み上げられると、セコンドについていた兄・井上尚弥は客席に向かって「もっと拓真にコールを」と言わんばかりのジェスチャーで煽りに煽った。モンスターのこんな姿は見たことがない。井上家のスクラムの強固さを見せつけられた格好だ。その効果は絶大で、拓真への声援はさらに大きくなった。
決して天心への声援がなかったわけではないが、この日にかぎっては少数派と見なすしかなかった。試合前から天心はアウェイの立場にあった。この現象は「僕が勝ったほうが面白くなる」といった発言への反発なのか。
予想とは相反する会場のムードに、ボクシングの歴史と伝統を重んじる保守ファン層の意地を見た思いがした。闘っていたのは拓真と天心だけではない。拓真の兄・尚弥を頂点とする「王道のボクシング」と、天心が唱える「シン・ボクシング」によるイデオロギーの闘いでもあった。
この一戦の異様ともいえる熱気は、拓真と天心の、ひいてはふたりを取り巻く者たちのボクシングに対する価値観のぶつかり合いに起因していた気がしてならない。
試合が始まると、場内のムードは一変した。サウスポーの“神童”が攻勢に出るたびに、大きなどよめきが起こる。天心の勝利を予想する者にとっては、納得できる流れだった。1ラウンド終了間際、天心の左オーバーハンドがヒットしたとき、そのボルテージはピークに達した。筆者の脳裏には、堤聖也を挑戦者に迎えてのWBA世界バンタム級タイトルマッチで、土壇場で気持ちの勝負に負けてしまった拓真の姿がオーバーラップした。
続く2ラウンドも天心の攻勢だった。この勢いで3ラウンドも……と思いきや、ここから拓真が巻き返しを図る。それまでとは打って変わって、前に出て天心にプレスをかけてきた。


