第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER

“速さと強さ”を発揮できるか…9年ぶりのシード権獲得へ向け、神奈川大学のエース・宮本陽叶が4度出場の箱根駅伝予選会で得た経験値 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byYuki Suenaga

posted2025/12/11 10:01

“速さと強さ”を発揮できるか…9年ぶりのシード権獲得へ向け、神奈川大学のエース・宮本陽叶が4度出場の箱根駅伝予選会で得た経験値<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

前回の箱根駅伝でエース区間の2区を務めた宮本陽叶。今回も2区での起用が予想される

 宮本の試練はさらに続く。3年生で臨んだ箱根駅伝予選会では、10月も半ばだというのに気温が極端に上がり、選手たちは暑さとの戦いを余儀なくされた。

「最初は調子が良かったです。設定タイムもなく、フリーで行かせてもらい、10kmをちょうど30分くらいで通過したと思います。余裕もかなりあって、これなら昭和記念公園に入ってからペースも上げられそうだと考えていたのですが、勝負に出ようと思っていたところで身体が動かなくなってしまいました」

 今度は熱中症の症状が出ていた。

 2年生での箱根駅伝で寒さに耐えた宮本の身体が、3年生での予選会では暑さに悲鳴を上げた。棄権せざるを得ず、出場権の獲得は仲間に託すしかなかったが、神奈川大は無事に通過していた。

「この時ばかりは、本当にチームメイトに感謝するしかありませんでした。本大会では絶対にチームを助ける走りをしようと思っていました」

 前回の箱根駅伝で、宮本はいよいよエース区間の2区を任された。しかし、神奈川大は1区で最下位の20位と出遅れ、19位の専修大学との差は19秒あった。無理に追いつこうとするとオーバーペースとなり、終盤に控える権太坂の難所で失速しかねない。宮本は冷静に自分のペースを守り、1時間08分29秒の区間17位でたすきをつないだ。

「ハーフ通過時点でのタイムは、1時間02分14秒のハーフの自己ベストを上回っていたのに、それでも区間17位。箱根駅伝のレベルはいったいどうなってるのでしょうか?」

 しかし、この経験は無駄ではなかった。今年2月に香川県で行われた日本学生ハーフマラソン選手権で1時間01分09秒の神奈川大記録を更新し、宮本が憧れる鈴木健吾を超えるタイムで18位に入った。

悲願のシード権獲得に向けて

 そして最上級生になった宮本は、今回の箱根駅伝予選会ではチーム内で唯一、フリーで走ることになった。ミスが許されない予選会ではペースを維持しながら走る選手が多いが、神奈川大の中野剛監督は宮本に信頼を置いていた。

 宮本は日本人学生の先頭集団に入り、積極的にレースを進めた。終盤、昭和記念公園に入ってからも食らいつき、1時間02分50秒でフィニッシュ。チーム内ではトップ、総合で34位に入り、箱根駅伝本選出場に貢献。エースとしての役割を果たした。しかし、レース後の宮本はホッとした表情を見せながらも、現実から目を逸らしてはいなかった。

「神奈川大の中ではトップでフィニッシュすることができましたが、予選会を通過した各大学の1番手の選手では、自分が最下位でした。エースらしい走りが出来ず、今回もチームに助けてもらう形になってしまいました。まだまだ課題が残るレースとなってしまったので、箱根駅伝本選まで、チームとしてシードを取るには何が必要かを考えて走ろうと思います」

 神奈川大の悲願である9年ぶりとなるシード権獲得へ、宮本が鍵を握っているのは間違いない。1区がどんな展開になろうとも2区を任されると予想される宮本は、他校のエースと堂々と渡り合わなければならない。これまで悔しい思いもしてきた箱根駅伝だが、宮本陽叶が4年間積み上げてきたものを表現できれば、神奈川大に勢いが生まれるはずだ。

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