第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
大迫傑、三浦龍司…箱根駅伝ランナーを育む名門高校の変遷と、強豪校出身選手ならではの“勝者のメンタリティ”とは
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和田悟志Satoshi Wada
photograph byNanae Suzuki
posted2025/12/03 10:00
前回の第101回箱根駅伝で総合優勝した青山学院大学の5区を務めた若林宏樹は洛南高校出身
ランキングを眺めて気づくのは、その顔ぶれにそれほど大きな変動がないということだ。20年前まで遡ると田村高(福島)や報徳学園高(兵庫)の名前が出てくるが、かつてはランキング上位の常連だった2校も、前回は田村高が2人、報徳学園高が1人にすぎなかった。理由はそれぞれの県での勢力図の移り変わりによるもので、致し方ないことなのだろう。
「強豪校出身の選手は、高校の時に優勝や入賞するための“心構え”を叩き込まれていますので、目標を達成するためにどうすればいいかを知っているし、そのための生活のリズムができています。イチから教えなくてもいいから指導もやりやすいです」
こう話すのは日本大学の新雅弘監督。以前は岡山の強豪・倉敷高を率いて、2016年、18年、22年と全国高校駅伝で3度の日本一に輝いた実績を持ち、多くの名ランナーを育て上げた。そして日大監督としても、低迷期を乗り越えて再び箱根駅伝の常連校に返り咲いている。
その新監督が「指導しやすい」と言う強豪校出身の選手は、勝者の心構えを持つだけにチームにもたらす効果も大きいのだろう。
この20年ほどのスパンで変わらず多くの箱根駅伝ランナー、ひいては傑出した選手を輩出してきた高校といえば、まず佐久長聖高が思い浮かぶ。
佐久高から現校名に改称した翌年の1996年に駅伝部が創設されると、両角速監督(現・東海大学監督)自らが整備したクロスカントリーコースで徹底的に走り込み、一気に全国の強豪校へと駆け上がっていった。佐藤悠基(東海大OB)、大迫傑(早稲田大学OB)といった、のちに箱根駅伝で活躍する選手や日本代表となる選手を多数輩出している。
2008年の全国高校駅伝では日本人選手だけでたすきをつなぎ、2時間2分18秒の日本高校最高記録(外国人選手を含まない記録)を打ち立て初優勝を果たしている。その優勝メンバーが2011年の第87回箱根駅伝で躍動した。
早大に進んだ平賀翔太、佐々木寛文、大迫は、箱根駅伝の優勝メンバー(佐々木はケガのためエントリーのみ)となり、学生駅伝三冠の偉業に貢献した。また、東海大に進学した村澤明伸は花の2区を務め、当時2年生ながら日本人3人目の1時間6分台で走り、日本人最多となる17人抜きの活躍を見せた。駒大に進んだ千葉健太は6区で区間新記録を樹立。4年連続で6区を任され、そのうち3回は区間賞を獲得した。
その後、両角氏の東海大監督就任に伴い、コーチを務めていた高見澤勝氏(山梨学院大OB)が監督の職を引き継いだ。就任1年目は全国21位と惨敗したが、その後、自身の指導スタイルを確立させると再び全国の強豪校に返り咲き、佐久長聖高を2017年、23年、24年と3度の日本一に導いている。駒大のエースとして活躍し、先日10000mの日本記録を打ち立てた鈴木芽吹(現トヨタ自動車)も高見澤門下生だ。
今回の箱根駅伝でも、順天堂大学の吉岡大翔(3年)や創価大学の小池莉希(3年)、早大の山口竣平(2年)ら佐久長聖高のOBがそれぞれのチームの主力として活躍を見せてくれるだろう。また、中大の濵口大和、早大の佐々木哲もルーキーながら出番がありそうだ。
もうひとつの名門校
そして、過去3大会で10人以上の箱根駅伝ランナーを輩出しているのが洛南高だ。かねてよりトラック&フィールドの名門校として知られ、長距離種目でも著しい活躍を見せており、3000m障害の日本記録保持者・三浦龍司(現SUBARU/順大OB)も洛南高出身だ。
現在、監督を務めるのが同校そして日本体育大学OBの奥村隆太郎氏。20代で指導歴ゼロながら監督に就き、現在は39歳となってキャリアは10年を超えた。名将・中島道雄前監督の後を継いだ当初はなかなか軌道に乗らず、就任2年目には全国高校駅伝の出場をも逃した。そこからチームを立て直し、2015年に10年ぶりの入賞となる6位に入ると、20年には3位、21年にはチーム最高タイとなる2位と表彰台に上がった。
佐久長聖高の高見澤監督と共通するのは、数々の功績を残した前任者の指導法をそのまま踏襲するのではなく、時代に即した指導法に目を向けて自身のやり方を確立したこと。一方で、前任者の情熱はしっかりと受け継ぎ、それぞれ一度は苦境に立たされながらも、強豪校であり続けている。
2021年に都大路(全国高校駅伝)で2位に入った時の洛南高のメンバーは、駒大の佐藤のほか、溜池一太、岡田、柴田大地が中大、宮本陽叶が神奈川大学へと進み、現在はそれぞれの大学で主力選手として活躍している。今回の箱根駅伝でも、洛南高の名をたくさん目にすることになるだろう。
選手の出身校に着目すると、かつてはチームメイトだったり、都大路で激戦を繰り広げていたりと、思わぬライバル関係が浮かんでくることもある。また違った角度から箱根駅伝を楽しむことができるはずだ。


