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「攻めの5区にしたかった」全日本大学駅伝を制した駒澤大学・藤田敦史監督がつなぎ区間にエース格を投入した“区間配置”の妙

posted2025/11/10 10:00

 
「攻めの5区にしたかった」全日本大学駅伝を制した駒澤大学・藤田敦史監督がつなぎ区間にエース格を投入した“区間配置”の妙<Number Web> photograph by JIJI PRESS

5区で國學院大學の飯國新太(右)をかわして先頭に立つ駒澤大学の伊藤蒼唯。伊藤は大会MVPを獲得した

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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 出雲駅伝の優勝から一転、全日本大学駅伝では4位に終わった國學院大學の前田康弘監督の言葉が、すべてを象徴しているようだった。

「やっぱ佐藤圭汰くんが走ると、駒澤大学はすべてが変わる。本領を発揮してきましたね」

 國學院大の全日本大学駅伝連覇を阻み、出雲駅伝の負けを取り返したのは、2年前の全日本覇者である駒大だった。1区から8区まで、すべての区間で5位以内に入るという盤石のレース運び。エース区間でも主力の佐藤(4年)らが力を発揮し、2位の中央大学に2分1秒差、4位の國學院大には3分近い差をつけた。

 勝因は、区間配置の妙にある。

 全日本大学駅伝は終盤の7区、8区の区間距離が長く、この2区間に信頼できる選手を置くのが定石だ。駅伝は流れが重要なため、1区から3区にも主力選手を配置したい。となると、枚数的にどうしても4区から6区がつなぎの区間になるが、駒大はその5区にエース格のひとりである伊藤蒼唯(4年)を投入した。

 藤田敦史監督が「つなぎではない、攻めの5区にしたかった」と話すように、従来の区間記録を17秒更新する伊藤の快走で首位を奪還。そこからの独走状態を築いた。

「本来はあそこにあれだけの選手は置けないですからね。それができたっていうのが一番大きかったと思います。伊藤がゲームチェンジャーになってレースを動かし、あとは7区、8区で勝負すると。後ろにもエースがいたので、前の選手たちは安心して走れたと思います」

 伊藤をつなぎ区間に配置することができたのは、5000mの室内日本記録を持つエースの佐藤が復調したからだ。6月に恥骨を疲労骨折したことで戦線から離脱していたが、9月中旬になってようやく練習を再開。まだ状態は7割ほどと言うが、きっちりと区間3位に入って存在感を示した。

 やはり、佐藤がいると駒大は凄みを増す。後ろにエースがいるからこそ、下級生は伸び伸びと走ることができたのだろう。駒大は昨年度、大学駅伝はすべて2位だった。今回の優勝で取り戻したのは自信だけではない。

層の厚さを武器に挑む箱根駅伝

 主将の山川拓馬(4年)がこう話す。

「3年生から下の代は初めて駅伝で優勝する嬉しさを感じられたので、それがすごく大きいです。箱根駅伝に向けては、この嬉しさをもう一回取りに行くつもりで全員でやっていきたい。箱根駅伝は本当に何があるかわからないので、また気を引き締めて、チーム全体で層の厚さを武器に戦っていきたいと思います」

 エースがエースらしい走りをし、層の厚さも見せつけた。次の箱根駅伝に向けて、駒大が5強(青山学院大学、駒大、國學院大、早稲田大学、中大)の中で頭ひとつ抜け出したとも言えるだろう。

 前回の箱根駅伝経験者が9人も残り、特殊区間である山の5区、6区にも山川や伊藤という区間記録を狙えるくらいの適任者がいる。あとはレースに向けてどれだけ戦力を上積みできるかだが、藤田監督の目配りに抜かりはない。今回は次世代エースの桑田駿介(2年)がメンバーから外れていたが、状態が悪いわけではないという。

「前回の出雲駅伝で区間9位に沈んで、本人は相当落ち込みました。でも今は自分のことにフォーカスして、ほぼパーフェクトに練習はできています。ただ、本人とも話をして、先を見据えた上であえて外すよと。たとえ今回、桑田が走ったとしても、出雲のマイナスからプラマイゼロに戻るだけ。でも、桑田抜きで戦って勝負ができれば、箱根駅伝であいつが戻ってきたときにプラスが2にも3にもなるんです。チームにとっては箱根駅伝に向けてプラスの要素があった方が絶対に良い。桑田は強くなって戻ってくるはずです」

 下級生が優勝の喜びを知り、それをどう今後の力に変えていけるか。今回の優勝がより価値を増すのはその時だろう。

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