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「人生経験が足りない」ラストイヤーの坂本花織(25歳)にじつはあった反対意見「いやー、そりゃ負けたくない」“浅田真央に並んだ”NHK杯優勝の舞台裏
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松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2025/11/10 17:43
NHK杯フリー『愛の讃歌』の演技を行う坂本花織
それを打破できた理由をこう表現する。
「緊張は仕方ないもんなので、緊張するのは『練習でやってきたことが出せるかな』みたいに思っているから緊張すると思うので、それを自信に変えてできたらこっちのもんやなみたいな感じなので」
キャリアを重ねてきて、とうに「怖いもの知らず」という段階にはない。数多くの試合の中でさまざまな出来事に直面し、そこで怖さを体験することもあっただろう。それゆえに来る緊張があり、でも、だからこそ対処する力も培ってきた。今大会の演技は、これまでに何度も示してきたそんな強さをあらためて感じさせた。
「人生経験が足りない」と言われても
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オリンピックの控える今シーズンは、特別なシーズンでもある。坂本は今シーズンをもって引退を表明している。つまり最後のシーズンとなる。
「(指導を受ける中野園子)先生からも『こういうのも来年から経験できなくなるんだから今、楽しんどかないと。今、このプレッシャーも味わっとかないと』みたいに言われていて」
と笑うと続けた。
「今年で最後って決めてからは、練習がめちゃくちゃ楽しくて、もちろん常にきついんですけど、でもやりがいのある練習が毎日できています」
プログラムも、このシーズンにふさわしいものを選んでいる。
ショートプログラムは『Time To Say Goodbye』。
「20年間スケートをしてきて、思い出を振り返りながら今の自分がこうやってでき上がったんだというのを滑りで示せたらと思っています」
フリーは『愛の讃歌』。
2014年ソチ五輪で鈴木明子が演じたのに憧れ、「いつかやりたい」という思いがあった。
「『この曲やりたい』って言ったとき、『花織にはまだ早い。人生経験が足りない』ってめっちゃ言われたんですけど、今やらないでいつやる、と強行突破して」
テーマは「スケート愛」。3曲を組み合わせて構成されているが、それに触れつつこう語る。
「3曲目のところを訳すと、何も後悔はしていないとなるので、自分自身、このスケート人生に悔いはないと言えるくらいやらないとな、という思いでいます」



