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「なぜそれを落語でやるの?」が出発点…“偏差値70超の進学校→国立大の数学科入学”異端の落語家が「落語界のM-1」で勝つ“最強のネタ”を作るまで
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生島淳Jun Ikushima
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2025/11/06 11:04
京都の進学校→国立大の数学科という異色の経歴を持つ落語家の立川吉笑。NHK新人落語大賞という大舞台で、勝負ネタに選んだのは?
自分が作りたい世界を、落語という枠に仮託することが可能だと気づいたのだ。
落語家になって10年以上が経ったが、だからこそネタを作る際には「なぜそれを落語でやるの?」という問いが常に頭に浮かんでしまう。一種の強迫観念のようなものなのかもしれない。
コントでできることならば、わざわざ着物を着て、高座に上がってやる必要はない。そのネタを落語でやる必然性を求めるうちに、結果的に舞台は古典の世界に置くことが多くなった。
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そんな軌跡を経て、この「ぷるぷる」というネタは完成した。
「競技落語」にある時間制限という難しさ
「新人落語大賞は11分間という時間の制限があります。普段の落語会では若手でも持ち時間は20分とか、少なくても15分はあるので、大会に向けてそれを短くする作業をするわけです」
普段より短い11分でネタの魅力を伝えきれるかというと、当然それは難しい。特に古典落語は噺の骨格が定まっている。そうなると、どこをアレンジするかの勝負になってきて、編集作業は極めて難しくなる。
新作で勝負する吉笑にしても、他のネタでは時間短縮のために、話の展開が急になったり、思わず口調が早くなる傾向があった。
ところが、この「ぷるぷる」というネタは、偶然にも最初から11分の時間に無理なくピタッと収まるネタだった。もともとは、ちょっとしたきっかけで生まれたことが吉笑のnoteに記されている。2021年の6月のことだった。
《朝までに送る必要がある連載原稿を必死で書き上げて、送信する前にもう一度読み返そう、その前に頭をリフレッシュしようと、部屋をうろうろしながら暇つぶしに唇をぷるぷるさせたときのこと。唇を震わせながら「疲れたなぁ」と喋ってみたら、案外喋れることを発見した。
二、三言喋ってみて「ひょっとしたらこれで会話ができるかも」と思えた。そこからは五十音を、日常会話を、落語のフレーズを、とにかくぷるぷる喋ってみて、これは聴きやすい、これは聴き取りづらいとリスト化していった》
偶然からネタが生まれているところが面白い。

