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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥の“エグい左”で「脳がグラッ」敗者アフマダリエフ「じつは5ラウンドの一撃で“異変”」世界的カメラマンがとらえた“心が折れる”決定的瞬間
text by

福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/09/20 11:12
井上尚弥はムロジョン・アフマダリエフをスピードとテクニックで圧倒。リングサイドで撮影した福田直樹氏が語る、「敗者の心が折れた」瞬間とは
試合当日、武居由樹選手がセミファイナルで敗れたこともあって、会場全体が不穏な空気になっていたことは確かです。ですが、井上選手の入場時の表情がとてもよかった。気持ちを奮い立たせながらも、絶妙なところでコントロールできていた。東京ドーム(ルイス・ネリ戦)やラスベガス(ラモン・カルデナス戦)では、むしろ気合が入りすぎている印象でしたから。熱すぎず、冷めすぎず、非常にいい状態だと感じました。
アフマダリエフは「井上尚弥」を学習できなかった
試合が始まってすぐの1ラウンドで、今日は井上選手のバックステップが素晴らしいなと感じました。最小限の反応で鋭く下がる。アフマダリエフ選手がいこうとしてもスッと外される。もともとクイックネスや瞬間的なステップには差があると感じていましたが、今回はとりわけ井上選手の「速さ」が際立っていました。
井上選手は多種多様なステップや構えを織り交ぜて、かつそれらをシームレスにつなげていました。常に同じ状態でいることがほとんどない。あれだけなめらかに移行されると、相手は的を絞れないだろうなと。トリッキーというわけではなく、足の運びにしても、ガードの上げ下げにしても、ボクシングの基本技術を極限まで磨き上げたうえに成り立っているもの。付け入るスキがない。率直にそう感じました。
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序盤は激しい展開ではありませんでしたが、互いのフェイントのかけあい、駆け引きのひとつひとつに、観衆が夢中になっているのがリングサイドでもよくわかりました。超満員のIGアリーナの視線が、意識が、両者の間の一点に集中して……。パンチをあまり見せていないのに、誰もがボクシングを堪能している。ひとりのボクシングファンとして、それがとても嬉しかったです。
井上選手がポイントを奪いながら序盤で情報をインプットしていったのとは対照的に、アフマダリエフ選手はほとんど「井上尚弥」を学習できていない状態だったのではないかと推察します。井上選手はそれだけ目まぐるしく動きを変化させていた。そして何も学習できないうちに、アフマダリエフ選手は後手後手に回り、さらに萎縮して固くなっていってしまった。そんな展開に見えました。


