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<甲子園令和の名勝負>大社ー早稲田実「奇策はいかにして生まれたか」早実の名将が語った内野5人シフトの真相「神様から降りてきたんだよ、今やれって」
text by

井上幸太Kota Inoue
photograph byAsahi Shimbun
posted2025/09/03 17:00
2024年夏の甲子園3回戦「大社ー早稲田実」は11回裏のタイブレークで決着する名勝負に。公式戦未出場だった大社の控え捕手が値千金の“神バント”を決めた
この夏、大社の勝負手は必ずと言っていいほど、犠牲バントとスクイズだった。ならば、試合を決める次の1点も必ず同じ戦術で奪ってくるはずだと和泉は思った。そうと分かっているならば、何か手を打たなければ。和泉は述懐する。
「負けるにしても、相手が自信を持っている策でみすみす負けるのは嫌だったから」
その時である。“天啓”とも呼べるアイディアが浮かんだのは。
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半世紀ほど前の話になる――。和泉が早実で捕手をしていた現役時代、恩師がかつて甲子園を懸けた試合で「内野5人シフト」を敷いていた、と聞いたことがあったという。和泉自身も高校時代にこのシフトを練習した経験があった。だから、全くの思い付きではない。監督になってからも頻繁にではないが、選手たちに練習させていたこともあった。
ただ実際に実行に移すにあたっては一つの懸念もあった。外野を一枚減らし、内野にシフトさせるにも、外野手のスローイングにやや不安があったのである。
そんな考えを巡らせていた和泉がふとベンチで左を見ると、戦況を見つめる一人の選手が目に飛び込んできた。1年生内野手・西村悟志だった。スローイングの正確な西村ならあるいは、と閃いたのだ。
同時にこんな逡巡も頭を過っている。失敗すればどんな批判が巻き起こるだろうか。OBたちからもなんと言われるか分からない……。だが、いま勝負に出ないで、いつ出るというのか。
最終決断について和泉は、若い頃だったらできなかっただろうとも話している。
「もう年齢も重ねてるからさ。結果は表か裏か、どちらかに出るだけ。結局、神様から降りて来たんだよ。今やれ、って」
外野2人、内野5人「見たことのない景色が」
外野には2人しかおらず、内野を5人で守っている。その異様な光景に球場が騒然としていた。テレビ解説も、それを観る全国の視聴者も、誰もが驚いていた。それは大社ベンチも例外ではなかった。
「見たことのない景色が広がっていた」とあの時を振り返る石飛は、当初その意図が理解できず、ようやくスクイズを阻止したいのだと分かってからも戸惑いは続いていた。奇策だったからという理由だけではない。そもそも石飛の頭にあの場面でスクイズという発想はなかったというのである。
「(私を含め)ベンチのだれにもその考えはなかったと思います。打席に入るのは2番でも、元々3番を打っていた選手なので」
スモール・ベースボールのチームと評されることの多い大社だが、石飛に特段その自覚はない。バントやスクイズは攻撃の一手段と捉えている。
だから相手の勝負手を前に石飛は、ならば逆にスクイズか? とも考えたという。
だが、名将の策に果たして経験の浅い自分の策で対抗し得るのだろうか――。
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