甲子園の風BACK NUMBER
「硬い雰囲気にしたくない」涙の日大三も優勝・沖縄尚学も監督、先輩後輩が“主従・上下関係”に縛られず…広陵問題に揺れた甲子園で見た希望
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間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/08/24 11:00
日大三の三木有造監督に声を掛けられる沖縄尚学・末吉良丞。爽快な2025年夏の甲子園決勝だった
チームを率いる比嘉公也監督はベンチから大きな声を出すことなく、じっと戦況を見つめる。円陣では短く言葉をかけ、それに対して選手たちは静かに一礼する。
比嘉監督が選手に指摘するのはポイントだけだ。例えば、エース末吉良丞投手に悪いクセが出てきた時は「軸足で真っ直ぐ立って、体が前に突っ込まないように」と一言アドバイス。相手打者が末吉を研究していると感じた際は、「気にせず自分の投球に集中しなさい」と伝える。
攻撃は1死からでも犠打で走者を進めるオーソドックスな戦術で、1点ずつ積み重ねた。日大三との決勝では6回、犠打の失敗もあって盗塁でチャンスを広げて決勝点につなげたが、今大会6試合で盗塁は計3個だったのに対してバントでの犠打は15個。仕掛けの少ない攻撃が特徴だった。
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比嘉監督は投手にも必要以上の指導をせず、成長を待つスタイルを貫く。育成方針については、こう話す。
「技術的なことは、ほとんど指導しません。避けた方が良い動きを指摘するくらいです。投手にとって大切な考え方や野球への向き合い方を伝えることが多いです」
両校に共通する「上下ではないフラットな関係」
選手と積極的にコミュニケーションを取るタイプではないと自己分析し、末吉に関しては「自分を避けていると思います。近づいて来ないですから」と笑う。それでも、中学時代から好投手として有名だった末吉は「比嘉監督の指導を受けたくて沖縄尚学を選びました。監督からは勝つ投手に必要な要素を教わっています」と信頼する。
動と静――。決勝で対戦した両校のスタイルは対照的だった。ただ、共通点もある。
それは、選手間の関係性。どちらのチームにも上級生と下級生の間に厳しい上下関係は存在しないという。沖縄尚学の比嘉監督は「自分の頃とは真逆です」と話す。日大三の三木監督はフラットな関係性が根付き、それがチームの強さにもつながっていると感じている。
「下級生が上級生を尊敬して、上級生は下級生をかわいがる。今年に限らず、それがずっと続いてきています。この関係性が甲子園で決勝に進むことができた要因でもあると思っています」
“広陵問題”があった中で
今夏の甲子園は、下級生に対する暴力が発覚した広陵が大会期間中で出場を辞退した。前代未聞の問題により、他のチームへの影響や大会の盛り上がりが懸念された。そんな中、各チームが1点を争う好ゲームで球場を沸かせ、球児たちが高校野球の価値を証明した。
4万5600人の観客が集まった決勝戦は、その象徴とも言える熱戦だった。決勝に進んだ両校の共通点は偶然なのか。高校野球が今後進むべき道を示しているようにも見える。〈甲子園特集:つづく〉


