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「野球だけじゃダメなんです」沖縄尚学・比嘉公也が球児と“交換ノート”を続けた理由…センバツ最年少優勝から17年、悲願の夏の甲子園初制覇へ
text by

城島充Mitsuru Jojima
photograph bySankei Shimbun
posted2025/08/22 17:01
夏の甲子園では初の決勝進出を果たした沖縄尚学。比嘉公也監督(44歳)の選手起用にも注目が集まる
たとえば、その日の練習メニューしか記さなかった部員のノートに、比嘉はこんな言葉をぶつけている。
〈お前のノートの内容は、チーム1浅い。何も考えてないから、これぐらいの文章にしかならない。情けない。こんな内容の浅いノートは二度と見せるな〉
新チームの主将に選ばれた桑江圭祐が視野を広げようと〈色々、試していきたいです〉と書くと、逆のアドバイスをした。
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〈色々試さない。1つ2つでいい。お前は考えすぎる性格だから、シンプルに行け〉
さらに、中学時代に全国大会に出場した2年生の新城流輝が〈守備を鍛えないとレギュラーは無理です〉という自覚を伝えたとき、比嘉は〈自分が法律と思うな。もっとスタッフを頼れるような素直さが出れば確実に変わる〉とその心理を読み解き、新チームが発足して初の紅白試合が行われた翌日、同じ新城のノートにこう書き込んだ。
〈チームの怒られ役になれ。嫌なら嫌といってこい。チームには「華」(花)も必要。それを輝かす、お前は「土」となれ。最高の脇役でいいじゃないか〉
ノートを交換する選手たちの本音
こうした比嘉の言葉の使い方は、部員たちにどう受けとめられているのだろうか。
「主将に選ばれてから、本当に僕でいいのかってずっと悩んでいました」という桑江は「比嘉先生から厳しい言葉をもらううち、少しずつ前を向けるようになってきた」と話す。
「僕は考えるのが苦手と思ってましたが、先生の目には考えすぎると映っていた。その言葉を受けとめて初めて、無意識のうちに物事をネガティブに考えていることに気づいたんです。自分が気づかない部分まで、先生が見ていてくれることに感謝しています」
桑江には「指摘されて、はっとした」こともある。まったく深く考えずに記した〈昼休みに図書館の先生に応援しているよと言われました〉という一文を、比嘉は叱責したのだ。
〈図書館の先生にも立派な名前がある。名前で書け。名前がわからないと相手が知ったらショックだぞ〉
〈「華」を輝かす「土」となれ〉と指導された新城も「もし、僕がすぐふてくされる人間なら、比嘉先生もこうは書かないはず」と前向きにとらえている。
「今までは中学のころと同じように、自分が中心になりたい気持ちが強すぎましたが、沖縄尚学で求められているのはそうではないことに気づきました。1年生のときのノートを今読み返しても、先生のコメントに『今の自分は違った方向に行こうとしている』と感じることもあります。まだ100%は納得してないし、嫌なら言ってこいと言われても言えないですが……」


