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監督就任2カ月で部内暴力が発覚…当時25歳の沖縄尚学・比嘉公也は“試練”をどう乗り越えた? 球児の心をつないだ秘策「全員、1冊ずつノートを持ってきてくれ」
posted2025/08/22 17:00
2008年センバツ優勝を果たした沖縄尚学・比嘉公也監督。26歳での達成は最年少記録を更新する快挙だった
text by

城島充Mitsuru Jojima
photograph by
JIJI PRESS
◇ ◇ ◇
3年前の不祥事がきっかけだった。野球部内で起きた暴力事件。監督就任2カ月目、25歳の比嘉公也にとって大きすぎる試練だった。なぜ起きてしまったのか、どうしたら部員達の心の声を聞くことができるのか――。悩み抜いた末に出した答えがノートだった。2008年春、野球部は見事立ち直り2度目の全国制覇を成し遂げる。それから1年半。監督と選手の心をつないだノートを訪ねた。
1時間以上かけて読む52冊のノート
沖縄・八重瀬町にある沖縄尚学高校野球部の専用グラウンドは「尚学ボールパーク」と名付けられている。
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甲子園で熱戦が続く8月中旬、昨年8月に完成したばかりのグラウンドで新チームの部員52人が準備運動を始めたとき、監督の比嘉公也は一塁側のダッグアウトにいた。
目の前の長机には、52冊のノートが4つの山に分かれて積まれている。
それぞれのノートの表紙には「野球ノート」や「野球日誌」というタイトルと名前が手書きで書かれている。大きな文字で表紙のほとんどをタイトルで埋める部員もいれば、沖縄尚学の校訓である〈怖れず、侮らず、気負わず〉を表紙に書き込む部員もいる。
ノートを1冊ずつ手に取った比嘉はときおり、右手に持った黒のボールペンを走らせた。全部員のノート52冊をチェックし終えるには、1時間以上はかかる。授業のあるときは休み時間などを利用するが、夏休みの間は練習中に合間を見つけてノートに目を通すのが28歳になる青年監督の日課だ。
「監督の役割というのは技術指導よりも、環境を整え、選手達に気づかせてやることだと思うんです。このノートは僕との言葉のキャッチボールを通じ、選手達にいろんなことを気づかせる重要な役割を持ってるんです」


