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「野球だけじゃダメなんです」沖縄尚学・比嘉公也が球児と“交換ノート”を続けた理由…センバツ最年少優勝から17年、悲願の夏の甲子園初制覇へ 

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城島充

城島充Mitsuru Jojima

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photograph bySankei Shimbun

posted2025/08/22 17:01

「野球だけじゃダメなんです」沖縄尚学・比嘉公也が球児と“交換ノート”を続けた理由…センバツ最年少優勝から17年、悲願の夏の甲子園初制覇へ<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

夏の甲子園では初の決勝進出を果たした沖縄尚学。比嘉公也監督(44歳)の選手起用にも注目が集まる

「野球だけじゃ、駄目なんです」と、比嘉は力を込めて繰り返した。

「毎日同じ通学路でも、なにか変化を発見する感性を養って欲しい。それは人生を豊かにすることにもつながるし、野球とも結びつく。見つけられなくても、見つけようとする意識で見ることが大事なんです。どこのチームだってユニフォームを着たら一生懸命練習する。だから、ユニフォームを脱いだ後が勝負だと思うんです。授業や教室での態度が、そのまま野球にもつながることもある」

練習に参加できない特進コースの球児

 レギュラークラスの部員たちのノートには厳しい注文をつける比嘉が「もし僕なら、同じことはできないし、同じ文章は書けない」と評価するのは、特進コースで学ぶ2年生、大城卓也のノートだ。

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 野球部員52人のほとんどが体育コースの生徒で、特進コースは大城を含む3人だけ。授業のカリキュラムが違う彼らは、ふだんは野球部の練習に参加できず、自主練習をするしかない。

「僕らは比嘉先生に練習を見てもらえる機会がほとんどない。このノートが、自分たちの練習内容や気持ちを先生に伝える唯一の方法なんです」という大城は、野村克也の著書から感銘を受けた一文を書き写したり、主カメンバーのノートを見せてもらって文章の書き方を研究したが、1年生のときは一度も比嘉のコメントをもらえなかった。

 初めて比嘉のとんがった特徴のある字をノートに見つけたのは、新チームが発足したばかりの7月12日。〈覇気がなければ甲子園には行けない〉と書いたすぐその下に〈覇気とは?意を調べてみろ。〉とあった。

「本当に嬉しかったです。すぐに辞書をひいて調べ、ノートに書き込みました」

 そして夏休みの途中から特進コースの3人もボールパークでのチーム練習に参加できるようになると、比嘉は何度も大城のノートにペンを走らせるようになる。コメントを見た大城は、そのたびに目頭が熱くなった。

〈卓也のノートは読んでいて楽しい(中身があるから)。技術の上達は簡単ではないが、努力せよ〉

〈みんなと一緒に練習できるこの時を大事にして上達せよ。お前のひたむきな行動は、チームにとって大きな財産。自分は特進コースだから無理という言い訳がないのが素晴らしい〉

【次ページ】 指導者として一番難しいことは何か?

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