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「あっ、800万円置いたままだ…」“車上荒らし”に遭ってもナゼ無事だった? 25歳で原辰徳より稼いだ賞金王・神山雄一郎の競輪に魅せられた40年
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杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJKA
posted2025/08/25 11:01
1993年8月、地元・宇都宮競輪場で開催されたオールスター競輪で優勝した神山雄一郎(当時25歳)。デビューから6年目で初めて特別競輪(GI)を制した
「高校生まではお金をもらう機会といえば、お年玉くらいでした。それが3日間のレースを3連勝で終えて、『賞金です』とポンって18万円も渡され、びっくりでしたよ」
“初任給”では当時欲しかったコンポを購入し、余った賞金は親へ渡した。かつて神山も目指したソウル五輪で列島が盛り上がるさなか、熱気が充満する競輪場で経験を積み重ねた。レースのグレードがFII、FI、GIII、GII、GIと上がるたびに賞金額も跳ね上がっていく。10万円台から始まり、100万円単位、1000万円単位へ。レース最終日に獲得賞金が支給される仕組みは今も昔も変わらない。本人が現金の手渡しを希望すれば、それこそ1億円でも、その場で受け取ることができると いう。当然、セキュリティー面などを考え、銀行振込みでも対応してもらえる。
「仮に1億円の賞金であれば、現金で1000万円だけもらい、残りの9000万円を振り込んでもらうこともできます。人それぞれですが、僕は現金で最高2000万円をそのまま持ち帰ったことがあります。あのときは、袋2つに現金を詰めてもらったんです。手で持ち運べるくらいの大きさでしたね」
「あっ、800万円は車に置いたままだ」
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36年間、現役生活を続けていると、思わぬトラブルに見舞われることもある。神山の記憶では、いつの日かの特別競輪だった。惜しくも2位で終わり、賞金の800万円を直接手で受け取ったが、まったく喜べなかった。頭にあるのは、1位を逃した悔しさばかり。競輪場から自家用車に乗り込むと、大金の入った現金袋をシートの上に転がっていたセブンイレブンのビニール袋の中へ押し込んだ。そして、後部座席の下へ雑に放り投げた。帰路の途中、レストランで食事を取っていたときのことだ。
「駐車場で車上荒らしがあったと聞いて、そこで気付いたんです。『あっ、800万円は車に置いたままだった』って。車の窓ガラスが割られていたので、さすがに持って行かれたと思いました。でも、盗まれたのは副賞の小切手(30万円)が入ったセカンドバッグ。大事なビニール袋は無事でしたね。きっとゴミみたいに見えたのかな(笑)」
その後、小切手も無事に戻り、被害は最小限で済んだという。

