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野球クロスロードBACK NUMBER
絶対王者に中盤まで“衝撃のリード”!?…高校野球「15人だけの連合チーム」が見せた“弱者の兵法”「野球って、やってみないと分からない」
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田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2025/07/31 11:02
かつては福島商の監督としてたびたび県大会の上位に顔を出していた菅原裕一監督。今大会は福島北・伊達の連合チームの監督として「ジャイキリ」に挑んだ
1アウトから、2番の八木沼颯斗が古谷野の内角ストレートに反応し、レフトへ弾き返すとベンチが沸く。
「これで完全試合とノーヒットノーランはなくなりましたねぇ」
喜ぶ選手たちをよそに、菅原と部長としてベンチに入る安達が安堵の言葉を交わす。
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3番の佐久間瑞樹も相手のエラーで出塁し、2アウト一、二塁。そこから5番の渡邊隼都が、外角チェンジアップをセンター前へ運ぶタイムリーを放ち、連合チームが先手を取った。さらに渡邉大河と大橋千汰が連続でフォアボールを選び、2点目を奪取した。
聖光学院の出鼻をくじく攻撃のなかでベンチの菅原を最も驚かせたのが、続く8番・佐藤悠心のバッティングである。
「1カ月くらい前からヒットが出るようにはなっていたんですけど、もともとバッティングが全然ダメな子だったんです」
監督の期待感が薄かった佐藤悠が、ツーナッシングからの3球目の内角ストレートを強振し、センター前に落としたのである。これも菅原が選手に多くの先入観を与えず、積極性を促した結果だった。
王者相手に…初回で「まさか」の4-0
これまで幾度となく対峙してきたからこそ、機微の変化がわかる。菅原は三塁側のベンチから、一塁側ベンチで泰然自若としながらも試合が確実に動いたと感じ取る、相手監督の斎藤の様子をしっかりと捉えていた。
「斎藤監督も若干、固くなったように感じました。『なにやってんだよ』と。こっちとしては、いかに精神的に優位にできるかと考えたなかで、『やってやろう!』って気持ちにはなっていけたかなと思います」
4-0。強者を「うっ」とたじろがせることに成功したとはいえ、菅原の脳裏に「勝利」の2文字が浮かぶことはない。「これで5回まではもつだろうな」と現実を見据えていた。
横山というエースがいなくなったとはいえ、背番号「1」を背負った、キャプテンも務める伊達の佐藤聖はゲームを作れるピッチャーだった。ストレートの最速は120キロ台中盤と速くはないが、カットボールとのコンビネーションを駆使して打ち取るタイプである。
1回裏は1アウト一、二塁のピンチで、4番・竹内啓汰と5番・細谷丈のクリーンアップをフライに打ち取り、佐藤聖が粘った。2回にはふたつのバント処理ミスとバッテリーエラーで2点を返されたものの、2アウト二塁からライトの八木沼がダイビングキャッチを披露して傷口が広がるのを食い止めた。


