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「ユウキとはセッションごとに必ず会話している」角田裕毅のマシンアップデートを後押しした、レッドブル新代表ローラン・メキースの対話力
posted2025/07/30 17:01
昨年のアメリカGPで角田と二人きりで話し込む、当時レーシングブルズ代表のローラン・メキース
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尾張正博Masahiro Owari
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Masahiro Owari
1周7km以上あるスパ・フランコルシャン・サーキット。アルデンヌの山間にある一般道を利用して作られたスパでは、コース上でのライバルとの戦いだけでなく、目まぐるしく天候が変わるスパ・ウェザーをいかに読むかというチーム戦略が勝敗を分ける。
今年の角田裕毅のベルギーGPは、まさに天候とチーム戦略に足をすくわれるレースとなった。
角田は予選7番手と久しぶりに良い流れに乗った。予選直前になって最新仕様のフロアを使用できることになったからだ。
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その決断を後押ししたのは、2週間前に電撃解任されたクリスチャン・ホーナーに代わり、このベルギーGPからレッドブルのチーム代表として指揮を執ることになったローラン・メキースだった。メキースは今年の中国GPまで、レーシングブルズで角田とともにレースしてきた戦友だ。
対話と協調を重視するリーダー
昨年レーシングブルズのチーム代表に就任したメキースは、それまで代表を務めていたフランツ・トストのように上下関係や根性を重んじる封建主義的なタイプではなく、対話と協調を重視する現代的なリーダーだった。
その年のアメリカGPで見た光景をいまでも覚えている。
レーシングブルズは中盤戦に投入したアップデートが不発に終わり、後半戦に入っても苦戦が続いていた。復調の兆しが見えない状況で迎えたアメリカGPでも、角田は土曜日のスプリントでポイント圏外に終わった。
筆者は角田の追加取材をしようとパドックで出待ちをしていたが、一向に現れる気配がない。それでレーシングブルズのホスピタリティハウス周辺を見渡してみたら、角田はメキースとともに屋上にいた。遠く離れたところから見ても緊張感が伝わるほど、ふたりは真剣な雰囲気だった。
後日、メキースにそのことを尋ねると、「ユウキとはあの日だけでなく、毎日、いやセッションごとに必ず会話しているよ。エンジニアからの報告だけでなく、直接ドライバーの意見を聞く。それが私の仕事のやり方だからね」と語ってくれた。
そのメキースがレッドブルに加入して緒戦となったベルギーGPで、角田に最新フロアが与えられることになったのは、偶然ではない。角田はエミリア・ロマーニャGPの予選でクラッシュしてから、旧スペックのフロアを使い続けてきた。最新のフロアがなかったわけではない。しかしそれは、チャンピオンシップ争いで上位にいるマックス・フェルスタッペンのスペアパーツとして保管され、角田にわたることはなかった。
メキースはやや過剰とも思えるフェルスタッペンへの優遇を見直し、チーム全体の利益を優先させ、全員が納得してレースを戦うという状況をレッドブルでも作ろうとしたのだ。

