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「内心、メラメラしてたんじゃないですか」世紀の“ONシリーズ”長嶋茂雄監督が交わした握手の意味…鹿取義隆の回想「コーチを務めて初めてのことでした」
posted2025/08/01 17:00
「世紀のONシリーズ」に勝利した長嶋茂雄監督は祝勝会で喜びをあらわにした
text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
KYODO
発売中のNumber1124号に掲載の[巨人から見たONシリーズ]「2000 燃え盛った内なる炎」より内容を一部抜粋してお届けします。
鹿取にとっての“長嶋との最大の思い出”
燃える男・長嶋茂雄は、その内面の熱さとは対照的に身内への感情表現は案外、淡泊だったという。
「シーズン中は手を出したら……」
そう言って鹿取義隆は、唐突に右手を差し出してきた。鹿取は巨人、西武と渡り歩いた右横手投げの元名リリーバーだ。
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鹿取の意図がわからずまごついていると「手を出してください」と催促される。
言われた通りにしたら撫でるように手を触られた。
「こんな感じ」
意外だった。鹿取は1999年、2000年と長嶋茂雄の第二次政権下で投手コーチを務めた。勝ったときは真っ先に歓喜を分け合ったが、長嶋の握手はタッチに近い感じだったという。
「いろんな人と握手しなきゃいけないから忙しいんでしょ。ただ、このときは……」
鹿取が再び手を差し出す。こちらがすかさず応じると、今度は軽く手を握られた。つまり、正真正銘の握手だ。
「キュッて。びっくりしましたね。2年間コーチを務めて初めてのことでしたから。それも2000年のシリーズの第5戦でしょ。最後の最後ですよ」
特に強く握られたというわけでもない。だが鹿取にとっては、それが長嶋との最大の思い出なのだという。
開幕前から空前の盛り上がりを見せた「ON対決」
巨人とダイエーがぶつかった世紀末決戦、2000年の日本シリーズは、今にして思えば、過剰なくらい「演出」が効いていた。
巨人は前年オフに大型補強を敢行した。FAでダイエーの工藤公康と、広島の江藤智を獲得。さらに阪神を自由契約となったダレル・メイを日本に呼び戻した。また、この年から長嶋は26年ぶりに現役時代に背負っていた栄光の背番号3を付ける。それだけで物語になるのは長嶋ゆえだ。
長嶋の第二次政権は「四番集め」と揶揄されながらも、貪欲に各球団のスラッガーたちを引っ張っては手放した。そんな長嶋が描いた夢の打線が一つの完成形を迎えてもいた。松井秀喜、清原和博、高橋由伸、そして江藤と4人のスラッガーを並べた超重量級打線はミレニアム打線と呼ばれ、シーズントータルで203本塁打を記録する。球団初の200本超えだった。

