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横綱・大の里「実は後輩に敗れていた」世界大会…怪物を撃破も“相撲界から消えた”同じ大学の天才力士とは何者だった?「弱冠19歳でアマ横綱に…」
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別府響Hibiki Beppu
photograph byKYODO
posted2025/07/14 11:00
2022年のワールドゲームスで優勝した日体大3年時の花田秀虎(中央)。決勝で破った1学年上の先輩・中村泰輝(左)はのちの横綱大の里だ
ところが翌年、大の里はちょっとしたスランプに陥る。
理由はシンプルだ。前年にルーキーながら勝ち過ぎたことで、ライバルから研究されたのである。結果的に、大の里は大会でなかなか勝てない負の1年間に突入する。
一方の花田は、未来の先輩が苦しんでいることなど露知らぬまま、翌2020年に和歌山商高から日体大に入学。185cmで130kgの体躯は大の里より一回り小さかったが、こちらもすぐに頭角を現す。
大学1年生で異例の「アマチュア横綱」に
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その年の12月に行われた全日本相撲選手権をあっさりと制覇。ちなみにこの大会は大学生のみならず、社会人や高校生までが参加するアマチュア力士最高峰の舞台である。花田はその大舞台を制し、同大会の準々決勝で敗れた「未来の横綱」よりも一足早く「アマチュア横綱」の称号を得たのだった。
しかも当時の花田はまだ19歳の大学1年生。
全日本選手権はほとんどの歴代優勝者が大学の3、4年生や社会人というレベルの大会である。高校を卒業したばかりの大学1年生の優勝は実に36年ぶりの快挙というおまけつきだった。
ただ、実績的には十二分に伍していたようにも見えるが、それでも当時から花田にとって“泰輝先輩”は脅威の存在だったという。
「泰輝先輩はなんというか、独特の懐の深さがあるんですよね。これは実際に戦った人間じゃないと分からないと思うんですけど……。本当に最後まで仕留め切らないと勝てないというか。勝ったと思っても、そこからグッと耐えて、運動神経と瞬発力と、スピードでバーンと上がってくる。最後の最後まで気が抜けないんです」
だからこそ2年目のスランプに苦しんでいた先輩を見ても「どうせすぐ勝つようになると思っていた」と振り返る。
「すごい人はもちろんたくさんいましたけど、泰輝先輩のポテンシャルは……やっぱりちょっと異質で。高校時代から一番研究していたのが泰輝先輩の相撲でしたから」
そんな花田の言葉をなぞるように、翌2021年に入ると大の里は一気に覚醒する。
前年の無冠がウソのように、その年の全日本選手権は圧勝。今度は逆に決勝トーナメントの2回戦で不覚を取った花田を横目に、アマ横綱の冠を奪取してみせた。

