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「今すぐ湯布院に逃げろ!」「は?」ダイエー佐々木誠にかかってきた深夜の電話…史上最大のトレードで常勝軍団西武へ移籍し「野球観が変わった」
text by

喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2025/07/05 11:05
西武に移籍した佐々木誠は.285、20本塁打、37盗塁で盗塁王となり優勝に貢献した
「最強2番」を狙うも……
「今でいう、最強の2番というやつです。送りバントなしとか、でも、僕があまりにも考え過ぎてしまったんです、2番の役割というのを。それで自分の中で、だんだんズレていくものがあって、結局1番とか3番になったんです」
そうした迷いを、首脳陣と本人との密なコミュニケーションを通し、微修正を繰り返しながら、最終的に適材適所への配置で落ち着かせていく。
「森さんは、ちゃんと意見も言ってくれる。こういう野球を進めて欲しいんだけど、と」
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西武には、勝つために貫くべき明確な意図がチーム全体で共有されていた。対照的に、それが、当時のダイエーに欠けていた最大の弱点だったと佐々木は指摘した。
「ダイエーでも、勝つためにやっていたんですよ。やったけども、やっぱりその打順に回した者が打てなかったりとか、力の差があったんです。ピッチャーもギアの入れ方が全然違う。ホークスのピッチャーって、100%をずっと出し切ろうとするから、あとは落ちていくだけで、それをずっと引っ張ってしまう。100で行かないと抑えられないんです。
でも西武は、仮に打ち込まれても、次に出て来るピッチャー、中継ぎも抑えもいい。ホークスのときは、僕らも守っていても計算できない。なんで代えないんだろうと思ったり、勝ちパターンのピッチャーでも、負けパターンでも同じピッチャーが出されたり。その差なんですよ。同じことをやっているけど、もう全然、力の差があり過ぎるんです」
選手が役割を理解していた西武
その“突出した個”が、それぞれの力を把握し、互いに理解しあうことで、チームという組織体が、有機的に動くことができる。佐々木がある時、西武のベンチで「そろそろ代打が出るんだろうな。誰だろう?」と思い、ふとベンチ裏をのぞくと、そこでもう、汗をだらだら流しながら、バットを振っている選手がいたことに驚いたという。
「言われる前に、全部自分でやるんです。パッと見たら、もうやってる。誰にも言われていないのに、凄いなと思いました。ダイエーでも、他のチームでも、言われてから準備するじゃないですか。手袋して、スパイク履いて『遅い』って怒られる。ダイエーのときなんかは『早くしろ』って。西武では、もう準備ができているんです」

