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今年誕生した“JRA初”の女性調教師「女性であっても男性と同じ土俵で戦える職業」 前川恭子厩舎、開業から3カ月の現在地
text by

片山良三Ryozo Katayama
photograph byAFLO
posted2025/06/29 06:00
前川恭子厩舎、開業から3カ月の現在地
当初志望していたのは、JRAとNARだった
筑波大で生物資源学を学び、馬術部に所属していた前川は、「馬が好き。そして自分には馬事文化を普及していく力があるはず」と考えて、卒業後の就職先をJRAとNAR(地方競馬全国協会)の二つに絞ったという。厩務員や調教助手ではない、裏方の職員を志望したのだ。しかし、どちらも最終面接に近いところまで行きながら不合格。これが幸か不幸か、彼女の人生を変えることとなった。「そうだ、トレセンで働いてみよう」と考えた前川は、まずは本当に競走馬に乗る仕事ができるものなのかを確かめるために栃木県の鍋掛牧場で働いた。「なんとかなりそうだ」と確認できたことで、今度はアイルランドのコン・コリンズ厩舎へ飛んで3カ月間の研修に励んだ。並の行動力でないことは、このエピソードだけで伝わってくる。そして、JRAの競馬学校厩務員課程に入学、修了。この時点で「調教師を目指す」という明確な目標を立てていた。
実際、26歳のときに調教師試験受験のための勉強会に積極的に参加するなど、早いうちに準備を進めていたが、やがて結婚、出産という大きなイベントがあって計画は延び延びに。再び動き出す契機となったのは長女の全寮制の中学進学で、初めての受験は42歳になっていた。47歳での開業は彼女が当初描いていた計画よりは遅かったはずだが、それでも十分に時間は残されている。
前川厩舎が掲げる“理想”とは
「出走回数を多くしたい」が前川の意図する厩舎経営だという。そのためには管理馬の健康状態を正確に把握するのが先決。最新式の機器を導入して、心拍数の変化や負荷をかけた後の回復をスタッフ全員でデジタルで共有して、決して馬に無理を強いることはせずに理想を追求している。6月8日時点で地方交流を含めてまだ3勝だが、開業からの3カ月間での75戦は前川の思いがこもった滑り出しと言えるのではないか。
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前川が調教師として初めて迎える夏は、勇退した音無秀孝厩舎から引き継いだモズメイメイ(牝5歳、父リアルインパクト)で重賞初制覇を狙う。
「昨年、音無先生が組まれたローテーションを踏襲させていただいて、北九州記念(7月6日、小倉芝1200m)からアイビスサマーダッシュ(8月3日、新潟直線芝1000m)と、メイちゃんが最も得意とする距離を2戦使います。放牧先から非常にいい状態で帰ってきてくれましたからね」と期待を寄せる。一気に士気が上がる夏がやってくる予感だ。
前川恭子Kyoko Maekawa
1977年4月9日生、千葉県出身。筑波大卒業後、牧場勤務を経てJRAの競馬学校厩務員課程入学。調教助手、厩務員を経て、'23年12月にJRA調教師試験合格。今年3月に栗東トレセンで開業。
